本と旅とそれから 待ってる 橘屋草子/あさのあつこ

本と旅とそれから

待ってる 橘屋草子/あさのあつこ

図書館からランダムに借りて来た中に、あさのさんの本が2冊あり、1冊が「ランナー(►感想はコチラ)」、もう1冊が本書。選んだ理由は、装丁がカラフルで綺麗だったのと、パラパラめくってみたら「ランナー」とは違う種類の物語のように思えたから。現代モノだろうと思っていたら、時代モノでした。

とても素敵な物語だったと思います。
「待ってる」
待ってる 橘屋草子/あさのあつこ(講談社)

橘屋という「中の上」ぐらいのレベルの料理屋を舞台に、そこに働く人々の物語を綴った7つの短編から成る1冊。

全編を通して、お多代という仲居頭が狂言回し・・・とまではいかないんだけれど、肝心のところに必ず顔を出して物語を収める役を果たしています。
これがいいキャラクターなんです。粋で少々ミステリアスな女性で、使用人の教育は厳しく、手加減なし。でも、そこここで、江戸っ子的ハートの熱いところを見せるのです。

そのお多代の、言葉は厳しいけれど心は暖かい、という視点が全編を包んでいるため、全体として、名もない貧しい人々を愛おしむような世界が描かれていて、読み終えてかすかにホロリとさせられます。
女性的な暖かさといってもいいかも知れません。
宮部みゆきさんが描く物語世界にもこんな感じのものがあるなと思いました。

高望みしない、今あるものをおろそかにしない、そして賢明であれ――というようなことが、決して教訓じみた形でなく、実にさり気なく、メッセージというほどの形を取るでもなく伝わってきます。
もちろん、今の世の中は価値観も様々ですし、高望みをすることも野心を持つことも決して悪いこととは決められません。でも、この本に描かれる世界――江戸時代の後半のいつかでしょうが――では、高望みは不幸につながることが多かったのでしょう。ましてや、登場人物のほとんどは貧しい人々ですから。

堅実といえばよいようなものの、ある意味、夢のない世界観でもあります。
それでも閉塞感や虚無感を感じさせないのは、何かの「ない」ことではなく、何かが「ある」ことに目を向けた、楽天的な逞しさを基調にした物語だからでしょう。

大震災の直後に読んだ1冊ということもあり、「命があっただけで幸せです」と語る避難所の方々の懸命な笑顔が浮かびました。


webcitron01.gif


My Favorite Books(お気に入りの本のブクログ)
BOOKS INDEX(作家別感想文一覧)

関連記事
tag: あさのあつこ 
  1. 2011/04/02(土) 22:30:05|
  2. 2011
  3. | トラックバック:1
  4. | コメント:0

トラックバック

トラックバック URL
http://lazymiki.blog110.fc2.com/tb.php/1252-be59c897
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

待ってる橘屋草子 あさのあつこ

あきらめない。少女の成長に心がふるえる! 江戸・深川元町の料理茶屋「橘屋」に奉公する12歳のおふくは、 厳格な仲居頭であるお多代の下で、女として仕事人として成長していく。 あさのあつこ待望の新刊。 何かを待たずにいられないのが、人の世のならい。では、おふくが「待ってる」ものは―? 12歳の春、貧しい少女・おふくは、江戸・深川にある料理茶屋『橘屋』で奉公を始めた。 美しく気丈な仲居...
  1. 2013/10/25(金) 15:23:51 |
  2. 粋な提案

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する