本と旅とそれから 3652/伊坂幸太郎

本と旅とそれから

3652/伊坂幸太郎

「小説というのは、理不尽なことに悲しんでいる人に寄り添うものなんだよ」


"No Music, No Life"という声をよく聞きますし、気持ちが沈んだ時に音楽から力をもらうと語る人も多い中、一部クラシックを除けばほとんど音楽を聴かない私は、実は密かに「私の場合は小説だ」と思っておりました。
なので、(▲)の一文を読んだ時は、「そう!そうなのよ!」という気持ちがぐーっときました(読む一方ではありますがっ)。

本書は伊坂幸太郎さん初のエッセイ集です。
3652

3652/伊坂幸太郎(新潮社)

万城目学さんのエッセイ集なんかもそうですが、伊坂さんのエッセイも、小説から推してきっとウィットとユーモアいっぱいの文章なんだろうな、と、読む前から思っていました。
その予想通り、この本も、ぷっと吹き出す箇所がそこここに。

ですが、TOPの一文を含む一編は、例外的にしんみりさせられます。

正確には、この一編はエッセイというより書評で、引用した文は、もともとその本の著者である伊集院静さんの言葉なのだそうです。
取り上げられている伊集院さんの小説は「駅までの道をおしえて」という短編集。

書評の中で伊坂さんは、人生を野球にたとえておられます(伊坂さんは野球好き)。
たとえば野球のゲームの中でバッターが打席に入る時、彼はひとりで、孤独かも知れない。だが、彼にはベンチの仲間から声援がおくられているのであり、「そのベンチには、今、一緒に生きている人だけではなくて、すでに亡くなっている人が座っていてもまったくおかしくないはずだ」と。

伊集院さんのこの短編集は、そうした「亡くなったけれど、ベンチにいる」人たちの声が聞こえる作品なのだそうで――この書評を読んで電車の中で泣きそうになった後、すぐに図書館に「駅までの~」の予約を入れ、今ワタクシ、読んでいるところです。

「3652」には、ほかにも多くの書評や作家評が収められていて、どれも「そんなに魅力的なら是非読んでみたい!」という気にさせられるのですが、うちの図書館には入っていない作品も結構ありました。
初めて名前を聞くという小説・作家もかなりあって、少し情けない気も・・・。

何というか、人があんまり知らないような作家(音楽でもいいんです。本書には音楽の話もたくさん出てきます)を「この人の作品が好きだ」と紹介するのって、恰好いいなー。
私が自分の好きな作家さんを挙げるとしたら、それはほぼすべてベストセラー作家になると思います^^;。

その一方で、北方謙三さんや赤川次郎さんといった作家さんの話も出てきます。
その言葉に励まされたとか、作品に影響を受けた、と。
私は、ちょっと前に北方さんの「水滸伝」を読み始め、そのあまりのハードボイルド調に辟易して4巻ぐらいで挫折したし、赤川さんは大学生ぐらいの頃に何冊か読んで「軽すぎるからもういいや」などと思っていたので、ちょっとフクザツな気がします。

それにしても、伊坂さんは、自分の作品が「爽快だ」と評されるのがお嫌なのでしょうかね。
何となく、それって不本意、と言いたげなところがちらほら見えたような。
なんか、はっきりこうと言い切れないような、複雑な世界を描きたいと思っておられるみたいです。

あとは、さらりと軽い調子で書いておられるけれど、やっぱり、デビュー前やデビュー直後の頃は、とても緊張して、不安な時期があったんですね。万城目さんもそうだったけれど、サラリーマンから転身されるっていうのは大変でしょうからね。万城目さんはデビュー前に会社を辞められたんだったと思いますが、伊坂さんはデビューした後で辞められたのだとか。でも、辞めてしばらくは、心配させたくなかったので出版社の人には辞めたことを言わなかったのだそうです。
きっと世の中には、万城目さんや伊坂さんのように成功できなかった作家志望のサラリーマンも多くおられるのだろうなぁ・・・。

伊坂さんの書いた短文を、何でもかんでも詰め込んだような1冊ですが、とても楽しめました。


webcitron01.gif


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  1. 2011/04/12(火) 22:30:01|
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「3652―伊坂幸太郎エッセイ集a decade」伊坂幸太郎

「喫茶店」で巻き起こる数々の奇跡、退職を決意したあの日のこと、 「青春」の部屋の直筆間取り図、デビュー前のふたりの恩人、偏愛する本や映画に音楽、 「干支」に怯える日々、恐るべき料理、封印された「小説」のアイディア― 20世紀「最後」の「新人作家」が歩んできた10年。 目次・幾つもの映像や文章に影響を受け、そして現在/キャラメルコーン/ ハードボイルド作家が人を救う話/健康療法マニア...
  1. 2013/10/25(金) 15:26:17 |
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