本と旅とそれから 金閣炎上/水上勉

本と旅とそれから

金閣炎上/水上勉

哀れ。ただただ哀れです。

この小説で水上さんが言いたいことはたぶんいくつかあると思うのですが、小説というよりほとんどノンフィクションといえる本書を読みながら、もう冒頭から、金閣に放火・焼失させる犯人・林養賢とその母・志満子の、薄幸としか呼びようのない人生が、哀れでなりませんでした。
金閣炎上

金閣炎上/水上勉(新潮文庫)

国宝・金閣の放火・焼失事件を題材にした小説といえば、本書よりも三島由紀夫氏の「金閣寺」の方がずっと知名度が高いと思います。
「金閣寺」は、私も1度(か、もしかすると2度)読んでいるのですが、何せ大学時代ぐらいなので、ほとんど全面忘却、ぼんやりした作品の雰囲気の記憶しかありません。また早速読み直そうと思ってますがそれはまだこれからのことなので、二つを比べてみてどうか、というのは、三島作品を読み直した時に考えようかなと思います。

今回私がこの本を読もうと思ったのは・・・そう、某検定のお勉強の一環^^;。
水上勉さんは福井県出身ですが、家が貧しかったために京都の相国寺塔頭・瑞春院の小僧になります。しかし、厳しい禅寺修行に耐えかねて13歳で出奔、その後、等持院で18歳まで過ごして後還俗されるそうなのですね。そして、京都の架空の寺を舞台にした小説「雁の寺」で直木賞を受賞。

私は、最初に読んだ水上作品が京都と全然関係のない「飢餓海峡」だったので、水上さんと京都って結びつけてなかったのです。最近読んだ「櫻守(感想文は►コチラ)」はどっぷり京都モノでしたが・・・。
まずは「雁の寺」読まねば・・・と思っていたのに、なぜか先に本書「金閣炎上」を借りてしまって。
・・・で、読み始めて気づきましたが、私、この本以前読み始めて挫折したことありました^0^;。

三島の「金閣寺」が非常に面白かったという記憶があるため、それじゃこちらも、と手に取ってはみたものの、脚色された物語としてぐいぐい読ませた「金閣寺」とはがらりと異なり、ルポルタージュ的にこつこつと事実の記録・記憶をたどっていく「金閣炎上」が、その時は味気なく思えたのだった・・・ような。


正直なところ、今回も、序盤は参考書でも読むような感じで、娯楽というより勉強だと思ってた時間がありました。――とても淡泊というか、何ら劇的な要素もなく、淡々とした語りなので・・・。
この作品の主人公が誰かといえば、それはやっぱり放火犯・林養賢(法名・承賢)です。

結構知られていることかと思いますが、この養賢という人にはかなりの吃音症があったそうです。
吃音・・・といえば、最近見た映画「英国王のスピーチ(感想文は►コチラ)」のジョージ6世もそうでした。最近、吃音の人を見かけることがほとんどなくなりましたし、もしかしたら効果的な治療法が確立されたのかも知れません。ジョージ6世のような雲上人にとっても、林養賢のような社会の底辺に近いところに生きた人にとっても、吃音というものがどれほど重荷になったかを聞くにつけ、是非是非そうであればと願います。

そして結核。
林養賢が生まれたのは、舞鶴の寒村の小さなお寺ですが、その寺の住職であった彼の父は、彼が中学生の時に結核で亡くなっています。ほとんど、彼の母が嫁いで来てからずっと寝たきりだったとか。
そして養賢自身も結核にかかり、金閣放火の罪で服役中にも病気は進行し、刑期を終えて釈放されると同時に入院、ほどなく宇治の病院で亡くなっています。父の病をもらった、と周囲には言われていたようです。

さらに貧困。
父は養賢が生まれてからずっと病気がちで、あまり村の住職としての役目を果たすことはできなかったそうです。その父が死んでしまう。死期が迫る中、息子・養賢の金閣寺弟子入りを決めることができたわけですが、養賢が金閣へ去った後に残された母は、寺からの立ち退きを余儀なくされて実家へ戻ったため、養賢には戻るべき家がなくなってしまいます。家からの仕送りも頼りにできず、彼は学校に入学した時に制服を買うことすらできないのです。

最後に、幻滅。
田舎の貧しい寺の息子でも、京都の名刹に入門できると喜んだ養賢親子。修行をつんで、かなうならいつか金閣寺の住職に・・・との夢を抱いて京都にやって来た養賢が、金閣で日々をおくるうち、現実を知ってどんどん幻滅していく。
住職どころか、金閣寺での日々をこのまま続けていくことにすら耐えられなくなるのです。

ほかにもあるようなのですが、これだけでももう、ひとりの人間が生きて行く気力を失うには十分じゃないですか。吃音、死病、貧困、そして幻滅。そしてもうひとつ、戦争。
そんな状況の中で、主人公は次第に精神的にも歪んでいく・・・。

正直なところ、読んでいるこちらまで気が滅入るようでした。

そして、彼の母は、逮捕された息子に面会に行き、それを息子に拒絶された帰り道、山陰線の列車から保津峡に身を投げて死ぬのです。

水上さんは、かつて一度だけですが、この林養賢という人に会ったことがあるのだそうです。そして、水上さん自身も、禅寺での修行に幻滅して逃げ出した経験を持っている。きっとそれだからこそ、顔のない破戒僧の放火犯が、水上さんにとってはひとりの人間としてイメージを持ってくるのですね。
水上さんの視点は、放火犯と同じ側に立つ人間のものだと思えました。

金閣炎上、それは黄金と炎に輝くワンシーンですが、その影にある闇は絶望的に暗い。
その輝度差の大きさに、ぐわ~~んと打ちのめされる感じでした。

――まだ書きたいことはあるんですが、さすがに、あまりに長くなってきたように思いますので、このくらいにしておこうかな。
近いうちに、また「金閣寺」の感想文を書くことにします。


webcitron01.gif


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  1. 2011/05/28(土) 23:36:45 |
  2. |
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鍵コメさん、

メール送るサ~。
  1. 2011/05/29(日) 17:50:12 |
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