本と旅とそれから 雁の寺・越前竹人形/水上勉

本と旅とそれから

雁の寺・越前竹人形/水上勉

水上勉さんの直木賞受賞作「雁の寺」――まあ、受賞は昭和36年と大昔ですが!
今回私が読んだ新潮文庫版には、昭和38年刊行の「越前竹人形」と2作が収録されています。

某検定に、「雁の寺」の最初の方の一節が示され、作品と作者の名前を尋ねる問題が出てました。
・・・なんてことを別にしても、面白かったです。
雁の寺・越前竹人形

雁の寺・越前竹人形/水上勉(新潮文庫)

つい先日、水上さんの「金閣炎上」を読み(感想文は►コチラ)、これと本書収録の2編には共通項がいくつか見つかる気がしたのですが、「金閣炎上」は昭和50年代に書かれた本なので、ほぼ20年の隔たりがあります。
といっても、金閣寺の放火・焼失事件については、昭和25年の発生当時以降、水上さんはずっと追いかけておられたようなんですけどね。

時間的な隔たりはさておき、この3作すべてに共通なのは、主人公が身体的に特異な点を持っているということ。
「金閣炎上」の林養賢は吃音、「雁の寺」の慈念は異様といえるほどに大きな頭、そして「越前竹人形」の喜助は子供と間違われるほどの背の低さ。
こうした身体的な特徴について繰り返し描写がなされ、それが様々に主人公たちの人生に影響を与えていることが語られます。

こうした話題はデリケートな性質のもので、私がへらへらと生噛りなことを書くのはきっと愚かというものでしょうね。それでも、吃音とか外見的な特異さといったようなことが、その持ち主の性格や人生に大きな影響を与えるだろうと想像することは難くありませんし、その影響も明るいものではないでしょう。

正直なところ、何となく目をそむけたくなる話題でもあります。
世間を騒がせる殺人事件なども、犯人が逮捕されその動機が報じられると、様々の身体的障害が関係しているとわかって、何ともいえない暗い気持ちになることもしばしば・・・。

特異さを持つ人に向けられる周囲の、社会の冷たい目。その冷たさが、向けられる人の中に蓄積され、ある時一気に、報復的に、その人の周囲や社会に向けて爆発する。
「金閣炎上」にはそんな要素があったと思います。

ただ、「金閣炎上」は事実を扱った作品なだけに、現実の複雑な状況が幅広く盛り込まれていましたが、それと比べれば「雁の寺」は、物語の描写はずい分とシンプル。小説の長さも中編程度です。
それだけに、「さいづち頭」と呼ばれるような風貌の小僧・慈念の、禅寺の暗がりにすっと立ってこちらを見つめているような、不気味な雰囲気が強められているように思いました。

この慈念という少年僧に殺される住職の名前が慈海というのですが――これは、金閣寺放火事件当時の、金閣寺住職の名前です。もちろん、偶然のわけないですよね。
ご自身も、少年の頃禅寺での修行を経験しておられる水上さんが、当時の京都の禅寺の内情に強い批判の思いと、おそらくは憎しみに近い感情を持っておられたのではないかと思われました。

「越前竹人形」は、お寺とはまったく関係がなく、人形職人の人生を描いた物語です。
主人公・喜助は、子供ぐらいしか背丈がなく、そのせいで周囲に蔑みの目を向けられます。
でも、この主人公がそうした世間の冷たさを受け止める態度は、とても静かなものです。諦念でしょうか。

おそらく、環境からやむをえず禅寺の修行をすることになり、その道を好きになることができなかった者と、竹細工という自分の職を愛し、その才能にも恵まれていた者の差なのですね。
喜助も最終的には幸せに恵まれるわけではないのですが、それでも彼の、不幸に閉じた短い人生は一時期輝き、後には、見事な芸術品と呼ぶべき人形が残される。

水上勉という作家さんも、こうして幾つか作品を読んできてみると、味わい深いなー。
もうちょっと読んでみたいと思います。


webcitron01.gif


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tag: 水上勉 京都の本 直木賞 
  1. 2011/06/19(日) 22:30:00|
  2. 2011
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コメント

雁の寺

ご無沙汰しています。
「雁の寺」って映画化されていて、
僕はとても好きな作品です。
実際、一部ではとても評価が高いのですが
ちょっと変な映画でもあります。
監督は川島雄三、主演は若尾文子です。
古い日本映画なので好みはあると思いますが、
ご参考まで~。
  1. 2011/06/20(月) 01:21:35 |
  2. URL |
  3. matin_soiree #-
  4. [ 編集 ]

matin_soireeさん、

お久しぶりです~^^

映画化されていたのですね、「雁の寺」!
原作から推測するに、確かに「ちょっと変な」映画なのかも知れませんね。
DVDあるんでしょうかね。
見てみたいような、みたくないような・・・。

教えて下さってどうもありがとうございます<(_ _)>。
  1. 2011/06/20(月) 23:34:41 |
  2. URL |
  3. lazyMiki #Dud4.962
  4. [ 編集 ]

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