本と旅とそれから 五番町夕霧楼/水上勉

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五番町夕霧楼/水上勉

金閣寺炎上をモチーフにした本書が世に出たのは1963年。
巻末の解説によれば、水上さんはこれを軽井沢のとある宿で書かれたそうなのですが、その宿のその部屋は川端康成が「伊豆の踊り子」を書いた場所で、訪ねたその解説の著者に水上さんは、この「五番町夕霧楼」は三島由紀夫の「金閣寺」に対する水上版「金閣寺」であり、決して三島の作品に負けない、と語ったのだそうです。
「五番町夕霧楼」

五番町夕霧楼/水上勉(角川文庫)

ちなみに、同じ水上さんがノンフィクションとして書かれた「金閣炎上」の初出は1979年。「五番町」より15年以上後のことになります。
「五番町」の方はフィクションです。
日本海に面した寒村から、貧しさのために京都の遊郭・夕霧楼へと働きに出た夕子と、親身に彼女を気遣う夕霧楼のおかみ・かつ枝、同僚の娼妓たち、客、そして夕子の幼馴染で鳳閣寺の小僧・檪田(くぬぎだ)正順などの紡ぐ物語です

言うまでもなく、この檪田という人物のモデルが、金閣寺放火犯・林養賢。
ひどい吃音のために常に日の当たらない場所で生きてきた、という林養賢と同じバックグラウンドを持っています。

「金閣炎上」の時も思いましたが、水上さんは本当にこの林養賢に強い同情をおぼえておられるのですね。幼馴染の夕子の口から、彼がいかに「可哀想な」人であったか、本当は純真な心の持ち主であり、今の陰気な人物は、世間がそうさせたのだ、ということが何度も語られます――水上さんの気持ちの表われでしょう。

が、「五番町」の主人公は娼妓・夕子。
・・・と、もしかして夕霧楼のおかみ・かつ枝も、かも知れません。
夕子は無口でおとなしい女性として描かれていて、心情描写はほとんどないし、セリフもあまりないのです。一方でかつ枝については「かつ枝は・・・と思った」という記述が多いし、セリフも多いし、行動派でもあります。
娼館のおかみなんていったら、何となく拝金主義者で、綺麗だけど冷たい人、みたいなステレオタイプなイメージがありますが、かつ枝は違います。
人間味があって、面倒見がいいし、現実的でもあります。なんか、いい人です。

ただ、ラストはもうやるせないほど寂しい。
「金閣炎上」も、ひたすら哀れで寂しい読後感でしたが、「五番町」もね~・・・。
女性が主人公なので、多少の華やかさは加味されるものの、やはり哀れです。
実際の放火犯・林は服役して出所した後に病死するのですが、本作では、放火犯・檪田は逮捕直後に警察で自殺します。そして現実と同じくその母は保津峡に身を投げて死にます。

そして最後に、療養中だった病院(その病室の窓から、炎上する金閣が見えるのです)を抜け出して行方不明だった夕子の亡骸が、檪田と同じ故郷の村で見つかって、物語は終わります。

金閣寺放火があった昭和25年というと、いまだ日本が戦争の影を引きずっていた頃ですね。
たまたま今日が終戦記念日ということもありますが、そのことをふと考えました。
300万人を超える日本人が死に、日本中が焦土と化した戦争を生き延びた金閣の姿に、当時の人々は何を見たのか。そして、戦火をくぐり抜けたあげく、ひとりの小僧の手で灰となるその運命。

人の命も、数百年のたてものも、消える時にはまさにうたかたですねぇ。


webcitron01.gif


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  1. 2011/08/15(月) 22:30:02|
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