本と旅とそれから 黄色い目の魚/佐藤多佳子

本と旅とそれから

黄色い目の魚/佐藤多佳子

前々から興味を持っていた作家さんです。
その割には作品名などほとんど知らず、たまたま図書館の文庫本の棚に見つけて借りて来た本書が初めて読んだ1冊となりました(しかし~、うちの図書館、もう少し文庫本の蔵書を増やして欲しいです)。
「黄色い目の魚」


黄色い目の魚/佐藤多佳子(新潮文庫)

表紙から一目瞭然ですが、物語は高校生の男女二人を中心にした青春物語です。
その点ではあまり私の好きな小説のテーマとは言えないんですが、でもとても面白かった。やっぱりこれは作家さんの筆力ってものかなぁと思いました。

ちなみに、なぜこうした青春モノがあまり好きではないかといえば、物語の中の若者たちの姿を見ていると、自分が同年代の頃は、ちっとも物語的なことをしなかったじゃないかと情けなくなるのと、物語の中の若者たちが、非現実的に大人びているように思えるから――で、しょうか。

でもまあ・・・若者に限らないのかも知れません。
人間、日々あれこれ考えたり思ったりするけれど、それは文字にして書き記すことができるようなはっきりした形のあるものばかりではないはず。人にもよるんでしょうけど、「ばかりではない」というより、はっきりした形をもたない思いや感覚の方がずっと多いのじゃないかしら。
高校生の頃なんて、今よりはるかにそうだったように思えるのです――あの頃の自分に、明確な思いや考えなんてどれだけあったか・・・。

小説の中では、それがすべて文字に記されている――当たり前ですけど。
だから、それを「読んだ」段階で、すでに「何か違う」という感覚がわくのでした。もちろん、若者らしい口調で、何となく支離滅裂な感じも漂うふうにとても巧みな文になってはいるのですが・・・。

ま、それはそれとして。
物語はとても魅力的。人物が魅力的です。
それぞれの家庭的背景、才能、適性、そうしたものに縛られたり導かれたりして形作られていく若者たちのひととなり。

主人公の少年・木島くんの、忙しい日々が眩しい。
自分が本当にやりたいことが何なのかがわからなくて悩む人が多い(と思うのですが)中、彼はまるで本能のように絵が描きたくてたまらないし、ひとりの女の子のことが頭から離れない。
そうかと思うとサッカーも大好きで、チームメイトの先輩や仲間との葛藤あり、尊敬の念あり、自分の下手さにヘコんだり立ち直ったり。
無為に過ごす時間なんて見つかりゃしません。

ああでも、高校生ぐらいだと、やりたいことを見つけ出すのはそう難しくないかしら?
もう少し大人になって、自分の才能とか、家庭や社会の事情やらといった現実がよりはっきりと見えてくると、無邪気に自分は何がしたいのか、を考えることができなくなってくるのかな。
好きなだけじゃダメだ、それで生きていけないじゃないか、と思うようになる・・・。

純粋に煌めくような若者たちの未来が、できるだけまっすぐにありますように。
彼らの思いが、色あせたり汚れたりすることがありませんように。まったく、とはいかないでしょうけれど、可能な限り――。

それにしても、大人は誰しも高校生の頃を経て今に至っているわけですが、だからといって高校生を描くことができるわけではなく。
その意味では、作家の想像力って本当に大したものだと思います。
歴史上の人物や、特異な境遇の人物のことを描くのはかえって楽かも。だって読み手はそうした人に会ったことがあるわけではありませんから。でも、高校生、子供や若者というのは誰もが経験していますものね。こんなんじゃないよ、と思われてしまうかも。ウソくさい、と。

それを乗り越えて読み手を物語の中に引きこんでいく筆力ってすごいものです。


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  1. 2011/08/30(火) 22:30:01|
  2. 2011
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