本と旅とそれから 美しい日本の私/川端康成

本と旅とそれから

美しい日本の私/川端康成

何といいますか、重層的に感銘を受けました。
――川端康成が1968年にノーベル文学賞を受賞した際の、記念講演全文。



美しい日本の私/川端康成
(Japan, the Beautiful, and Myself/
Edward G. Seidensticker)(講談社現代新書)


重層的に、というのは、まず第一に川端の文章そのもの。
それから、つい先日読んだ三島との書簡集の関連で。
そして最後に、同じ本に収められていたエドワード・サイデンステッカー氏の英訳です。


まずはそのものですが・・・もう、あれですね。
川端ぐらいの作家になると、作家であると同時に学者であるといってもよいのでしょうね。古典を様々に引用して、日本人の内にある(べき)自然の美しさ、その深さを語っています。
ちなみに、件の書簡集に三島がこの文章の感想を綴っているところがあるのですが、三島にして「知らない引用文がたくさん」ということですから、私などは、「えーっと、確かこんなのをどっかで見た気がする」ぐらいの和歌がちらほらある程度です。とほほ。

今でこそ、欧米で禅がもてはやされ、わび・さびなどについて様々に語られたりもしているようですが、この1968年という頃には、おそらく日本文学の翻訳もまださして数多くなく、日本人に独特の美学がある、なんてことは、欧米人の思いもよらないことだったかも知れません。

もしかしたら川端は、日本にも、欧米とはまた違った美の感覚があるということを今こそ語らなければと、大いに気負ってこの文を書いたのではないでしょうか。

・・・「雪国」ほどじゃないにしても、これもなかなかすぐに「へえ」とわかる文でもないのですが。でも、頭の中に、演壇に立つ川端の姿を思い浮かべる時、それはまるで世界に向かう日本代表、みたいに思えて、よくわかったとまでは言えないけど、そのスピーチが見事な日本の「美」に満ちていることが、とにかく誇らしく思えるのでした。

それから、三島との関連で。

さっきちょっと書きましたが、三島はこのスピーチ文の感想を川端に書き送っています。
それが、書簡集のところで引用した、「自分が死んだ後に家族が笑われるのは・・・」を綴っているのと同じ手紙なのです。

ちょっと違和感を覚えるほどに襟を正した手紙。
文学者として最高の名誉に包まれた川端への賛辞と、自死の予告ともとれることばが、同じひとつの手紙に同居しています。

自分の死後、家族を護ってくれるのは川端だけだ、と書き送る三島の胸中には、崇高な日本の美について語る川端の文章がどう響いたのか。・・・そこのところは、決して三島の感想文に記されることはなかったわけですが。

最後に、サイデンステッカー氏の英訳。

これ、英訳といえばまあそうなんですけど、単なる翻訳とは次元が違います。

書簡集を読むと(読むまでもなく広く知られていることのような気もしますが)、サイデンステッカー氏と川端(三島も)が友人同士だったことがわかります。
きっと、サイデンステッカー氏は、川端に何度も意見を求めながらこの英語版を書かれたのだろうと思います。

何しろ、次から次へと古典が引用されてます。
日本語で読んだって、古文の読解に四苦八苦です。それをさらに英語に・・・。
かなり平易な英語なので、日本語より英語の方がわかりやすいところもたくさんあります。
(ちなみに、どちらの言語で読んでもよくわからないところもあります。)

以前、ドナルド・キーン氏が英訳された「奥の細道」を読んだ時にも感じましたが、こうした最高レベルの日本学者たちの理解レベルって凄まじい。
優れた知性が国境を超えるていうのはまあわかるんですが、彼らは何というか、遺伝子の違いも超えちゃうようなところがあります。

で、何とも口惜しい。
外人さんに、こんなにも見事に川端の「美」を理解されちゃって。
負け惜しみたっぷりに言えば、だからといってサイデンステッカー氏の英文が川端の文を完全に伝えたとは思わないんですけどね(それは、誰が訳しても不可能でしょう?)。

でも、やはり、この1968年当時、川端が大いなる気概をもってこのスピーチをした(と私が思うの)と同じくらい、サイデンステッカー氏は、その川端の言葉を世界(というか欧米)に届けようと、渾身の力をこめてこの英文を書かれたのだろうなあ、と・・・。

まあ、ノーベル賞ってことで、想像を逞しくしてひとり感動したのでした。のはは。


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tag: 川端康成 Seidensticker 
  1. 2010/03/30(火) 23:55:00|
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