本と旅とそれから しゃべれどもしゃべれども/佐藤多佳子

本と旅とそれから

しゃべれどもしゃべれども/佐藤多佳子

そしてまた、とても楽しい小説に出遭うことができたのでした!
なんだかこの小説は、三浦しをんさんの「仏果を得ず」と対を成しているかのように思えました。

片や、呑気さと明るさで語られる文楽の世界、そして片や、ちょいせっかちな、テンポの良さと勢いが命!みたいな江戸前落語の世界。

関西ファンである関東人のワタクシですが、「をっ、これもええやん・・・ぢゃなかった、いいじゃん」とニンマリしたくなるような江戸っ子ワールドでした。
「しゃべれどもしゃべれども」

しゃべれどもしゃべれども/佐藤多佳子(新潮文庫)

絶対面白いだろうと読み始めた1冊は、予想に違わずたいっへん面白うございました!

好きで好きでたまらない道がある人は幸せです。もちろん、どれだけ好きでもその道で大成できると決まっているわけではなく、大抵はプロになれることなく終わってしまうものだと思うんですが。それとも、本当に好きならば、プロになれるとかなれないとか、そんなことすら気にせずひたすらその道に精進できるものなんでしょうか。

江戸弁(東京弁とも言うのでしょうか?)は、いわゆる「標準語」というのとは違いますよね。
江戸弁を喋る人、というと最初に頭に浮かぶのが一心太助です。・・・といっても、私が知ってる一心太助というのはNHKの時代劇で緒方直人さんが演じてたのだけなんですけど。
次に浮かぶのが「御宿かわせみ」の神林東吾。その次が、村上弘明さんつながりで「八丁堀の七人」の青山久蔵って感じ。あ、勝海舟なんかも、時代劇で見る限り、「ひ」と「し」を言い分けられない江戸っ子喋りですね。

それはともかく。
主人公・今昔亭三つ葉は「二ツ目」と呼ばれる、前座と真打の間にいるポジションの噺家。
いかにも江戸っ子らしい、何でも白黒つけたがる気の短い若者です。で、これは江戸前・上方を問わず下町の住人に共通の特徴なのか、とても世話焼き。下手するとおせっかい(主人公は、現在は吉祥寺に住んでますが、もともとは人形町の住人でした)。

その彼が、自分の話芸にも苦心を重ねる一方で、「喋り」に問題を抱える4人の男女にひょんなことから「まんじゅうこわい」を指南するハメになる、というのがお話。

その4人の中のひとり、10歳の村林少年がいいんです。
大阪から親の転勤で東京にやって来て間もない彼は、小学校でもひたすら関西弁を通すのですが、その言葉や、そもそもそうした意地っ張りな姿勢もあって、クラスのボス的存在の子ににらまれ、孤立無援の日々をおくりつつあります。

そんな彼を三つ葉の元に連れてきた少年の母の元々の思惑は、江戸前落語でも覚えさせて、関西弁をやめさせようというものだったのですが、少年の関西弁をその強みと感じた三つ葉は、少年に上方版「まんじゅうこわい」を演じさせることにするのでした。
が、肝心の指南役は江戸弁の噺家で、関西弁を教えられない。ので、桂枝雀師匠の録音を使うんですけどね。

桂枝雀という噺家さんは、ほんっとに天才だったんですねぇ。
私は存命中にも、TVで何度か見た(聞いた)ことがあるだけなんですが・・・。ご本人の噺とは別に、亡くなった後のNHKのドキュメンタリー番組を見たんですが、これが何だかすごかった。
枝雀師匠に近い人々が、いかに彼が天才であったか、そしてまた彼がいかにその芸に没入し、悩み苦しみ、最後には自らの命を絶つまでに至ったか、を口々に語るというものでした。

ああ、いかん。
桂枝雀のDVDもどっかで借りてこなくては。文楽も見なきゃならぬし。いろいろだよぅ。

この村林少年の、愛すべき意地っ張りぶり。
ひとり関西弁でどこまでも通そうとする彼の姿には、どうしたって思い入れてしまいます。
クライマックスの「発表会」のくだりでは、つんつるてんの七五三の和服に、ぶかぶかの阪神タイガースの帽子をかぶり、「六甲おろし」の出囃子で高座に出て行く彼の姿にうるっとし、かなうことなら屋号(んなもんないけど)を叫んで励ましたい気持ちでいっぱいになりました。

全編が、この今昔亭三つ葉のナレーションという形で展開するのですが、そのせいで、全編に江戸っ子喋りらしいせっかちさと、「細かい説明は面倒くさくってやってらんねえ」的エラくさっぱりした雰囲気が満ち満ちています。こうした文体で書き上げること自体、作者の素晴らしい筆力だと思います。

三つ葉も、天才ってわけじゃないので、高座に上がった途端に緊張して、ひどい出来になってしまうこともある。そんな時でも、高座から降りたら、聞きに来てくれた人(その人が来たおかげでアガってしまったんだけれど)にきちんとお礼を言いに行くからえらいなあ。
出来はともかく、ホント、頑張っててえらいよ。

ここのところちょっと、ヒトにものを教えるということの難しさ、みたいなことを考えることが多かったので、耳に痛い箇所も多々ありましたが・・・。

この小説は、映画化もされてますよね。
桂枝雀のDVDと併せて、レンタルショップで探してみたいです。


webcitron01.gif


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