本と旅とそれから 錦/宮尾登美子

本と旅とそれから

錦/宮尾登美子

鬼気迫る職人の姿・・・とでもいうのでしょうか。
西陣の「龍村美術織物」創業者・初代龍村平蔵氏の一生を描いた物語。
(作中では、菱村織物の菱村吉蔵となっています。)

たまにこうして宮尾さんのパワフルな作品など読むと、その重量級の力に圧倒されます。
何となく図書館の書棚を眺めていて「あれ、見慣れない宮尾作品(文庫版は昨年終盤に出版されています)」と手にとってみたら西陣の話ということで借りてきました。
「錦」

錦/宮尾登美子(中公文庫)

最近、とんと着物とご無沙汰してしまってます(カメラと入れ替わったといいますか^^;)。以前は着物関係の友人たちと展示会やらお店やら見て歩くこともときどきあったのですが。
といってもその頃でも、大して知識や鑑識眼があったわけじゃないので、実はこの本を読みながら「菱村織物っていうのは、ホントはあのお店のことだわね?」と思い描いていたのが違う店だったと、あとがきを読んでわかりました・・・うぅ。


宮尾さんといえば、マスコミに登場されるときにはいつもお着物姿という印象があります。
そんな方なら特に、西陣織の最高峰(なのでしょう、きっと)である龍村の帯に憧れる気持ちは強いのでしょう。龍村の帯についてお喋りしていた場にたまたまその龍村の社長さんがおられたことが縁となって、この物語が生まれたのだと、あとがきにありました。
帯一本に家一軒ですってさ。どっひゃー。

「織り」に憑りつかれたひと、って感じですね。
鬼気迫る、とか壮絶な、といった言葉で形容したくなるような姿、生き方。
すごい。怖い(ようだ)。近寄れない――いや、近寄りたくない、かも。
あれもこれも手に入れようなどといういわば器用なことはできず、たったひとつの道にすべてを捧げ、他はすべてひとまかせ。
それでもその専心ぶりも極めつけとなれば、一流と認めざるをえない。何しろ一流の仕事を次々と成し遂げているわけですから。

その最高峰が、正倉院御物の復元。
あ、ちなみに、龍村美術織物のHP(►コチラ)で、その見事な錦の画像がちょっと見られます。

主人公・吉蔵は、自分で「織る」ことはできません。自分は、研究し、デザインし、見極める。
・・・そこのところが不思議にさえ思えるんです。これだけの熱意があったら、織りの技術だって習得できてしまいそうだけど。そうはいかないものなのでしょうかねー。
おかげで、彼の下で働く職人たちは、彼に怒鳴られ、酷使され続けるわけですが。まあもちろん、それを職人たちがどう受け止めていたかは人にもよるのでしょうが。
よくそのような労使関係が成り立ったものだと感心してしまいます。

そうした主人公の織りに打ち込む姿がタテ糸だとするなら、ヨコ糸となるのが、彼に関わる3人の女性。
正妻・むら、妾・おふく、そして使用人・仙。
・・・つくづく、吉蔵って「浪花恋しぐれ」な人だ(歌の名前は今ググったんです^^;)。
「芸のためなら女房も泣かす」ってとこだけですが。

女性たちの姿は、三人が三様に哀れです。
長年連れ添ったあげくに、妾(しかも子供3人)の存在を知ることになる「むら」も、どれだけ悔しかったかと思うし、妾という日陰者の分を守り、最後には胸を病んでひっそりと死んでゆく「おふく」も可哀想。そして、吉蔵が織物の道に足を踏み入れた最初の頃から思いを寄せ、支え続けつつ、結局最後までその恋心が報われることのない仙の哀れ。

どこらへんまでが宮尾さんの創作なのかはわかりませんが・・・。
三人とも、ある程度までは自分で選んだ道だったわけですが、そうせざるを得なかった面もあるわけで――特に、おふくさんは可哀想だったなぁ。
大阪の人なのに、吉蔵の都合で東京暮らしをさせられて、子供のひとりを病気で失い、ほどなく自分も結核になって子供から引き離されて清瀬の療養所に入れられ、関西に帰りたいと夢見つつ死んでゆくという・・・。境遇的にほかにどうしようもなかったというのが、まだ昭和前半の頃のお話です。

ひとつのことに打ち込む、とはよく使われる表現ですが、この表現だと、主体となる人間が、その度合をコントロールできる感じがします。
が、吉蔵の場合は「憑りつかれ」ていて自分じゃどうにもならない感じです。物狂い?天才?

こんなお人もいたのですねぇ。

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