本と旅とそれから 花と火の帝/隆慶一郎

本と旅とそれから

花と火の帝/隆慶一郎

下巻の最後まで読んで、何より驚いたのは、話が突然終わっていたこと。未完の作品だったんですね。
隆慶一郎さんの絶筆だったそうです。
隆さんの作品は、これまで「影武者徳川家康」しか読んだことがないんですが、つくづくこの作家さんは徳川秀忠が嫌いなんだなぁ、と、感心というか、「なんでそれほどに?」と、ちょっと疑問。
「花と火の帝」

花と火の帝(上)(下)/隆慶一郎(講談社文庫)

なんでこの本を読んだかというと、図書館の文庫本の棚で何となく手に取って、裏表紙のあらすじを読んだら、これが後水尾天皇の話だったからです。
後水尾天皇といえば、某検定の勉強を始めるまでは、ほとんどその存在すら知らず、でも、勉強を始めてみたら、少なくとも京都との関連では、とーってもメジャーな存在であったことがわかった人物なんです。 

某検定の勉強は、ひたすら詰め込み的暗記作業ではあるのですが、もともと京都が熱烈大好きで、ちょくちょくお邪魔もしている私などの場合、どんな形であれ、京都に関する知識が増えることは、京都という名の一大文化作品をより多角的に味わうために、とても役立ちます。

後水尾天皇にしてからが、その業績その他をあれこれ知るにつけ、京都大好きとか言ってるくせにこの人の名前も知らなかったって、アタシったら恥ずかしい、て感じでした。

本書の物語は、後水尾天皇の父・後陽成天皇の頃から始まるのですが、この後陽成天皇の皇弟が八条宮智仁親王で、本書によれば(歴史的事実なんだろうとは思いますが)、後陽成天皇は当初、その位を智仁親王に譲りたいと考えたそうなんですね。で、この智仁(ちなみに読みは「としひと」)親王についてあれこれ説明されていますが、私がこの人について知っていたことはわずかに「息子と一緒に桂離宮を建てた人」ということだけ。
それももちろん、某検定の受検勉強で仕入れた知識でございます。

そしたらほどなく小説中に、「現代の人々にとっては、八条宮智仁親王は桂離宮を造られた宮さまだと云った方が、判りは早いかもしれない。」と書いてあって、「すっかり見抜かれてる」と思ったものです。
・・・受検勉強してなかったら、それすらもなかったこと間違いなし。
やっぱり、望み薄でも、受検勉強がんばろうっと。

閑話休題^^;。

歴史小説だろうと思って読み始めた本書でしたが、読んでみれば「これは伝奇だ」。裏表紙の解説をよく見たら、伝奇って書いてあった^^;。

正直なところ、あんまり・・・好きな作品じゃなかったかなぁ。
理由は主に三つぐらい。あまりにも天皇至上主義な色調。主人公の上から目線。根拠不明の徳川秀忠バッシング。といったところです。

天皇至上主義については、隆さんが学徒出陣された世代であるということが大きいかも知れません。
戦後世代には思い及ばない、天皇という存在への崇拝の念が、存在の深いところにあるんじゃないかと推測します。そしてそれは、少なくとも私には共感できるものではないのです。
私は(前にも何かのときに書いた気がしますが)、天皇制反対論者ではありませんが、天皇というものを、ほかのすべての人間とは根本的に違う存在だとする考え方は理解できないんです。社会的に違う、とかならわかりますけど、なんかこう、天皇=現人神みたいな意味で違うという考え方はまったくわかりません。

人の心を読む能力を持ったものが、後水尾天皇の心の中を覗こうとしたところ、そこには眩しい光が満ち溢れていて、それどころではなかった、といったくだりとか、ことあるごとに天皇がふつうの人間より何か高い次元の存在なのだということが匂わせてあって、何だかそれがイヤでした。

それから主人公・岩介のエラそうな感じが鼻につきます。
最初、本書は後水尾天皇を主人公にした歴史小説だと思っていたのですが、ほどなく、実は岩介という超能力者を主人公にした伝奇小説だとわかったのです。この岩介が「天皇の隠密」の頭として活躍する話なの。
まあ、伝奇小説だと思えば・・・で、言ってみれば勧善懲悪スタイルの話だと思えばある程度は「まあそれでもいいか」って気もしますが・・・。

人の心を読む力を持つ者が、誰かとの戦いや競争で優位に立てるのは当たり前ですよね。
これが「読む」ではなくて、読みたくなくても聞こえてしまう、みたいな状況だとまた話は違って、聞こえてしまう人はかなり悩み苦しんだりするのですが。
この岩介という男は、幼い頃に「天狗」に仕込まれたとかで、他にも超能力をあれこれ自在に操るんです。なので、どんな相手と対しても、常に余裕綽々。ああ、ハラ立つ。

奥さんは目を見張る美人だし、岩介には何だか知りませんが人間的魅力がたっぷりとかで、すぐに周囲の人間の心をつかんでしまう――だが、私の心はつかまない、それが困るのよ。
セリフとか、何気ない描写とかで「いいなあ、この主人公」って気持ちにしてもらいたいものです。
「信長の棺」と同じで、なんかこう、作者がすごく感情移入して描いた理想のヒーロー像なんじゃないかと想像しています。一種の、男性版ハーレクインみたいなもんじゃなかろーか。

そして徳川秀忠。
以前(かなり前)読んだ「影武者徳川家康」は、隆さんの代表作のひとつだと思うのですが、これは、実は関ヶ原で戦死していた徳川家康に代わってその影武者となった侍が、極悪人・徳川秀忠と戦う話でした(記憶は限りなくうっすらしてますが)。

あの小説でも、確か秀忠はものすごく陰険で残忍な人物に描かれていたように思いますが、今回も同じ人物像です。
――秀忠って、どんな人物だったんでしょうねえ、ホントのところは?わかるわけありませんけども。
時代劇でもいろいろですし。「江」の向井理さんは、ひねくれた部分とまっすぐな部分を併せ持ったなかなか魅力的な人物だったし、記憶によれば「葵」の西田敏行さんは、エラく小心者の善人だったような。

徳川将軍家って、嫌う人は結構いますよね。
司馬遼も、御庭番を多用する陰湿な政治をした、みたいなトーンで書いていたと思います。まあ、私も、特にいいイメージを持っているわけではありませんが。
しかし、実在した人物をあそこまで悪く描くって――と思ったけど、伝奇小説だと思えば、それもいっか。

結局は、主人公に共感できなかったのが一番大きいかと思います。

でも、この小説を読んで、八瀬という場所にすごく興味がわきました。
大原や比叡山へ行く時の乗換地点という印象が強かったのですが、なんか、もっとあの場所をよく知りたいなぁ、という気持ちがわきました。
いやホント、京都ちゅとこは奥が深い。最後はそこに落ち着きます^^;。


webcitron01.gif


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  1. 2012/08/11(土) 22:00:01|
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コメント

こんばんは

隆 慶一郎の作品は、好きでほとんど(多分全部)読んでいるのですよ。
漫画の原作にもたくさんなっていますね。
たしかにこの人の小説に書かれる秀忠は、ものすごく悪者になっています~(笑)
「影武者 徳川家康」にいたっては、超極悪人(^_^;)
ほんとのところはもちろんわかりませんが、しばらくは信じ込んでしまってましたよ。

で、
某検定の勉強してるんですね。
2,3日前に今年の案内が届きました。
去年は惨敗してるので、受けるかどうかは検討中です(?_?)
  1. 2012/08/13(月) 01:09:57 |
  2. URL |
  3. belfast #-
  4. [ 編集 ]

belfastさん、

そうでしたか!隆慶一郎さんお好きな作家さんだったのですね。
漫画にも?知りませんでした。
最近、小説を漫画家するケースが多いですねー。

筆力のある作家さんに重厚な文体で描き出されると、つい、動かぬ事実のように思えてしまいますよね。
私も、司馬遼太郎さんの幕末・維新モノをいくつも読んだおかげで、かなり長い間、日本軍国主義の元凶は山県有朋ただひとりだと思い込んでました^^;。

某検定、私も案内受け取りました。
belfastさん、受けましょうよ~。
惨敗ぶりは、間違いなく私の方が凄まじかったはずですけど。
でも、ホントにものが覚えられなくなっていて、情けないやら恐ろしいやら。特に漢字。
「直前・ヤマのかけ合い」とかしましょうよー。
  1. 2012/08/13(月) 23:55:50 |
  2. URL |
  3. lazyMiki #Dud4.962
  4. [ 編集 ]

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