本と旅とそれから 序の舞/宮尾登美子

本と旅とそれから

序の舞/宮尾登美子

うむむむむ・・・素晴らしい・・・。
最後まで読み終えた後、じわ~っと涙がにじみ出るような小説でした。

上村松園の人生はすごい。そして、それをこうして小説に描き出した宮尾さんもすごい。
「序の舞」

序の舞(全)/宮尾登美子(中公文庫)

先日読んだ宮尾さんの「松風の家」が素晴らしかったので、もうちょっと宮尾作品を読みたいな、と図書館の文庫本の棚を眺めたところ、本書がありました。
私は、宮尾作品はそれなりに冊数を読んでいるとは思うのですが、代表作といわれる作品で未読のものも結構あり、本書もそのうちのひとつ。なので、早速借りてきました。


この作品は、当初上下二冊で出ていたものだと思うのですが、借りて来た本は「全」とあるように、一冊に合されています。巻末には解説もあとがきもなく、それでも700ページを超える分厚さ、しかも本を開けてみると、「字が小さい!」。ひと昔前の文庫本のようです・・・読みにくそうで、途中で挫折するんじゃないかと思いながら読み始めたのでした。

でも、あっという間に物語に引き込まれました。
「松風の家」と同じく、おそらくは現在よりもずっと古風と思われる京都弁を話す人々が織りなす、華やかであり、悲しくもあり、醜くもあり、眩しくもある感動的な物語です。

ウィキかどこかでは、この作品を上村松園の「伝記」と書いていましたが、「松風の家」巻末で阿川弘之氏が書いておられたように、主人公の名が上村松園ではなく島村松翠と変えられていることからも、やはりこの作品はノンフィクションではなく、一篇の物語として読むべきなのだろうと思います。

明治、大正、昭和と、日本の社会が、また画壇というものが大きく変貌を遂げた時代に、女性が道を究めること、名を成すことへの大きな逆風に抗って、日本画の世界に見事輝いた画家・島村松翠(上村松園)の一生を描いた物語です。

上村松園といえば、セットのように息子・上村松篁の名前が思い浮かびますが、私これまで松篁が父親に認知されていない、庶子だということは知りませんでした。
小説では、松篁の父は、松園の最初の師・高木松渓(鈴木松年)だとされていますが、これは本当のことなのかしら?ウィキには、松園の項にも松篁の項にも鈴木松年の項にもそれについては書かれていないんですけど。

明治の頃、世は男尊女卑のいまだ甚だしい時代。そんな中で、女性などいないに等しい画壇に足を踏み入れ、実力をもって作品を認められ、さらに妻子ある師との間に子供を成す――妻子ある師との間にというのは、今現在でも白眼視されるだろう行為ですよね・・・。
松園は、最大の理解者であった母に支えられ、歯をくいしばって世間の冷たい風に耐えていくわけですが・・・いやー、これって、ちょっと想像するだけで、どれだけ苦しかっただろうかと、松園母子の忍耐力に感嘆の思いがします。

最初の師・松渓、後の師・西内太鳳(竹内栖鳳)の両方と男女の仲になり、松渓との間に生まれた最初の子供は里子に出したり(すぐに亡くなってしまうのですが)、それで疎遠になったのが後によりが戻ってまた再び子供(松篁)が出来たり、かと思うと、かなり年下の恋人に夢中になり、結婚できないなら死ぬといって毒薬を飲もうとしたりと、華やかというか激しいというか・・・静かではない人生をおくる松園。
優れた芸術家というのはこうでなくちゃならないもんでしょうか、などとも思いましたが、そうした母の姿を見て育ったはずの息子・松篁は、ものすごく堅物なんですね。

物語を読みながら、なんとなく、実際の上村松園は、ホントは描かれているような人物ではないんじゃないかと思いました。世間では上村松園という女は、成功のために、力ある男つまり師匠に体で取り入った、という厳しい批判の目を向けたのだそうですが、物語では、松園はいつもひたすらに純粋で、打算もしたたかさも持ち合わせていないように描かれています。
本当のところはどうだったのか。実はものすごく計算高い、名を成すためには何でもするような、というか、絵で成功することの前には他の何も大したものとは思えないような人だったのかも知れません。

でも、そうした「本当の人物はどんな」という想像とは別に、宮尾さんの描き出すひとりの女流画家の姿には、強く感動させられました。
本当に、何と強い人なのでしょうか。
挫折もあり、失敗も(特に恋愛関連)何度も繰り返し、その失敗も半端ではなく重大なものなのに、その度にぐぁぁぁ~っと、もがくようにしてまた立ち上がってきます。

そしてまた、彼女を支える母・勢以の存在にも涙しました。
松園自身もはっきりと自覚していたように、あの母なくして画家・上村松園はあり得ませんでした。それについては、実際に松園の言葉も残っているようです。
しかしよくまあ、自分の娘とはいえ、あそこまで世間の常道をはずれた生き方をする娘を認め、支えることができたものだと感心します。「母親とはありがたいもの」という月並みなレベルを超えてますね。

本書を読みながら、何度かウェブで上村松園や竹内栖鳳の絵を見ましたが、何だかむくむくと、実物を見たいという気がわいてます。どこかに見に行こうかなぁ・・・。


webcitron01.gif


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tag: 宮尾登美子 
  1. 2013/05/21(火) 22:00:02|
  2. 2013
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コメント

序の舞、すっごく前に一度読んだっきりだったので、lazyMikiさんのこの記事を読んで私もまた読んでみたくなりました。宮尾作品は荘厳で読み応えありますよね!
  1. 2013/05/22(水) 09:19:04 |
  2. URL |
  3. lundi #-
  4. [ 編集 ]

lundiさん、

つい最近まで、宮尾作品のマイベストは「菊亭八百善の人々」でした。もちろん今でも大好きな作品ですが、今は「松風の家」と「序の舞」が同点首位です。
本当に読み応えあります。重厚ですよね~。
  1. 2013/05/23(木) 00:00:25 |
  2. URL |
  3. lazyMiki #Dud4.962
  4. [ 編集 ]

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