本と旅とそれから 鬼龍院花子の生涯/宮尾登美子

本と旅とそれから

鬼龍院花子の生涯/宮尾登美子

宮尾登美子さんの「代表作」あるいは「有名作」で未読のものがたくさんあることを、最近あらためて認識したので、図書館で目につく順に借りてきては読んでいます。

「鬼龍院花子の生涯」――「なめたらあかんぜよ!」と啖呵をきる故・夏目雅子さんの美しくも壮絶な姿が思い浮かぶこのタイトル。
「鬼龍院花子の生涯」

鬼龍院花子の生涯/宮尾登美子(中公文庫)

それにしても、あたしゃてっきり、その夏目雅子さんが鬼龍院花子かと思っていました。というか、「鬼龍院花子の生涯」という小説の主役は鬼龍院花子だと思っていました――まあふつうは・・・そう思うものだと思うんですけどね。

ああしかし・・・やっぱりヤクザの世界は怖いです。ホント、恐ろしい・・・ぶるぶる。


ずい分前のお正月だったか、超長編のTV時代劇で清水次郎長が放映された時(たぶん、北大路欣也さんが主演)、すごーく面白く見たのですが、その時もやっぱり、日本刀を振りかざす男たちがぶつかって殺し合う「出入り」なるシーンには戦慄したものでした。
次郎長時代劇では確か、親分子分の絆の強さや、義理に篤い人間関係といったところに重点をおいたドラマになっていて、演じる俳優さんたちも全体的に品がよいので、あんまり嫌な感じはせず、むしろ恰好よかったんですが、「鬼龍院」に描かれる高知のヤクザたちは、もっとずっと現実的。

暴力が横溢し、女たちは1人前の人間とみてはもらえない。
そんな鬼龍院一家に少女の頃に養女にもらわれそこで育ち、養女といいながらその家の娘らしい扱いなど受けたこともなく、忍従と苦労の年月を重ねる主人公・松恵。これが、映画では夏目雅子さんが演じた人物です。

松恵はしかし、鬼龍院の人間と血のつながりがなかったからこそ、ある意味ファミリーの生物学的な束縛を受けることなくてすむわけです。受け継ぎたいような資質じゃないですよ。それは、紛れもなく鬼龍院の娘として生まれ育った花子が、長くもない人生をどうおくったかを読めば明らか。ある程度は、花子自身、境遇の被害者といえる部分もあるのでしょうが・・・。

ヤクザ同士の抗争で人が死ぬという話が何度か描かれますが、茶道の家や画家の生涯を重厚に描いた宮尾さんの、同じ筆致で語られるその様子は・・・「素手で相手の刃を握ったために十指はふっとび」なんて凄まじすぎる。・・・と書いていてふと、司馬遼の描く「油小路の決闘(新撰組の内部抗争の話)」でも確か、切り合いの後、小路には切り落とされた指が散乱していたとあったっけ、なんて思い出しました。
銃も怖いけど、刀も怖い。人殺しの道具は、何であれ怖いですよぅ(T_T)。

松恵という女性は、少女の頃にそんなヤクザの家に繋がれてしまうわけですが、正真正銘その家の娘に生まれた花子がどうしようもない女に出来上がってしまうのとは対照的に、みずからを律し、学問や技術を身に付け、もがきながらも懸命に自分の足で歩んで行きます。自分には何の落ち度もなくても、鬼龍院政五郎の養女であるためにふりかかる苦労と不幸は数知れず、いつ終わるとも知れない――それでも絶望にも自暴自棄にも陥ることがなかったなんて、うぅ~む、ホント、すごい人だ(実在のモデルがいるようなのです)。

もちろん生来のものもあったのでしょうが、置かれた逆境のために、いっそうその辛抱強い性格に磨きがかかることになったのでしょうねー。
・・・そして何十年の後、結局彼女は、「鬼政」の娘であったことが自分の中で大きな力になっていたことを感じる。それを明確に表現したのが、映画の名シーン(といっても、私はこの映画を見ていないんですが)で、「鬼政の娘のアタシをなめたらいかんぜよ」と叫ぶ彼女の姿というわけです。

ああしかし。やっぱり怖い。
たま~にこうした、ヤクザだとか暴力団の出てくる小説を読みますが(「新宿鮫」とか「不夜城」とか)、現代ものにしろ時代ものにしろ、「別世界の話で、ああよかった」と、しみじみ。

この作品は、宮尾さんにとっては比較的初期の頃の作品だと思いますが、何十年も昔の話とはいえ女の身で、よくもこれだけ恐るべき世界の物語を書き上げられたものだと、あらためて作家・宮尾登美子に尊敬の念をおぼえました。


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  1. 2013/06/28(金) 22:00:00|
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