本と旅とそれから 木洩れ日に泳ぐ魚/恩田陸

本と旅とそれから

木洩れ日に泳ぐ魚/恩田陸

恩田さんの作品、これの前に読んだのは「麦の海に沈む果実 」でした。今回の本書もそうですが、なんとなく、タイトルが幻想的で素敵です。そのタイトルに魅かれて読んでみることにしました。
(一部ネタバレあります、念のため。)
「木洩れ日に泳ぐ魚」

木洩れ日に泳ぐ魚/恩田陸(文春文庫)

「黒と茶の幻想」などもそうだったと記憶していますが、なんというかこう、体に密着してくるような、不思議な密度の濃さを感じるような物語世界――の、ように思えました。それがときどき、息苦しく感じられもします。皮膚呼吸できないよー、みたいな。

本書は、時間としてはたったひと晩だけのお話です。場所も、とあるアパートの一室だけ。


そこに、ひと組の男女が差し向かいで座り、お酒を飲みつつ、話をする。
行為としてもそれだけで、物語の中の男女も、自分たちの置かれた境遇にかなりの息苦しさを感じているようです。そして彼らは、心理的にも息苦しい状況にあります。

これまた、私がこれまで読んだ恩田さんの作品によく見られたパターンだと思うのですが、物語には謎や疑惑が空気そのもののように漂っています。
二人がかつて出かけた旅先で、彼らのガイドだった男性が死ぬ。あの死は何だったのか。
男女はお互い、相手がその男を殺したのではないかと、そして「最後の晩」である今夜こそ、そのことを問い質したいと考えているのでした。

それが一番目につくところに据えられている謎なわけですが、さらに読み進めると、実はもうひとつ、同じくらい大きな謎が存在することがわかってきます。
途中から、あちこちでもやもやと、不可解なディテールが目につきはじめ、やがて、ほんのふとしたことをきっかけに、「何で今さら」的に、ひとつの事実が明らかになってくる・・・。

明らかになってしまえば、事実は殊更恐るべきものではないとわかるのですが、でも、その過程においては、何だかとんでもないことが隠されているのではないかと思えて、ちょっと背筋がひやりとします。
「ユージニア」なんかもそんな感じだったかな。

ラストは、いまひとつおさまりの悪い、「もうあと2~3時間あとまで書いてよ」って感じがする終わり方だと思います。ただ、まあ、この男女(物語のひと晩が明ければ、別れることになっています)は結局、このひと晩限りでもう永遠に別れてしまうのかなという気もします。謎が謎であったことで結びつけられていた二人は、謎が解明されてしまったら、もう特別な二人ではなくなってしまうのか、と。

共感、といったものは別に何もわきませんが、この濃密な空気感に、ついつい引き込まれて最後まで読んでしまう感じでした。


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  1. 2013/07/22(月) 22:00:02|
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