本と旅とそれから 二つの祖国/山崎豊子

本と旅とそれから

二つの祖国/山崎豊子

この本の感想文を書いたのは少し前のことですが、その後、山崎豊子さんの訃報に接しました。88歳で亡くなられたそうですね。
おかしなもので、私にとって一番印象の強い山崎作品は「大地の子」です。まだ読んだことがない^^;。
上川隆也さん主演のNHKドラマでの印象です。あれも、TVで放映されていた時は見ておらず、後で図書館で借りてビデオで見たのでした――しかも、途中の巻が古くなって映像が乱れていたので買い直してもらったりして、数巻にわたるドラマを見終わるのに、ずい分と時間がかかったのでした。

それはそれは感動したものです。
もちろん、映像と活字は違うし、ドラマは何しろ上川隆也さんの中国語も含めた熱演が素晴らしかったということはあります。音楽もよかったし。
でも、物語そのものは山崎さんの作り上げたものです。
力強い「大地の子」の物語をぜひ読みたい!と、今はすご~く思っています。
ご冥福をお祈りします。


山崎豊子さんの小説を読むのは、「白い巨塔」、「華麗なる一族」、「沈まぬ太陽」に続いて4作目になります。いつも読みたいという気持ちはあって、図書館に行くたびに、文庫本の山崎さんのコーナーを眺めるのですが、何しろ長編が多い方ですから、1巻目が棚にないことが多いのです。
少しまとめて読みたいと思うから、2巻目ぐらいまで一緒に借りて来たいと思ったりもしますし。

それでなかなか手が出ずにいましたが、今回は運よく1~4巻、スムーズに借出せました。
「二つの祖国」

二つの祖国1~4/山崎豊子(新潮文庫)

この小説は、かつてNHKの大河ドラマで映像化されていますが(タイトルは「山河燃ゆ」)、初めての近代モノということもあって馴染みがわかず、全然見ませんでした。でも、松本幸四郎さんが主人公を演じ、沢田研二さんや島田洋子さんが出ていたことは知ってました。
小説を読むうえで、少しだけ、そのイメージで登場人物たちを見た・・・かも知れません。


前半は、第二次大戦中にアメリカに暮らした日系1、2世の人々の過酷な日々を描き、後半は東京裁判について大変詳細に追っています。

日系アメリカ人たちが、第二次大戦中、強制収容所に送られたり、財産を没収されたり、アメリカへの忠誠心を表すために敢えて志願兵となって戦ったことなどは何となく知っていました。割と最近、それについてアメリカ政府が公式に謝罪したというようなニュースも。

でも、何となく知っているというのと、目の前に映像が浮かぶくらい詳細に語られるのを読むというのはまた違うことですね。収容所として使われた競馬場の、狭さ、不潔さ、プライバシー皆無の精神的な苦しみ。やがてマンザナール強制収容所に移ってからは、今度はアメリカと日本という二つの国の間に立ち、どちらにアイデンティティーの拠り所を見出すかで、同じ日系人の中に亀裂や対立が生まれる。国から忠誠心を問われる。そんな心の平安のない状況で毎日を送らねばならないつらさ。

そして東京裁判の話になってからは――主人公・賢治の仕事が、裁判の通訳のモニター(=チェック役)という仕事だったので、一層思い入れを持って読んでしまったんですが、いや~、ただでさえ法廷通訳ってハードだと聞きますが、世界大戦の戦争責任を問う通訳の実質最高責任者って・・・どれだけ重圧があることか。
賢治は、アメリカと日本の両方で長い生活経験があり、しかもその両方でバッチリ勉強して、これ以上強力なバイリンガルもないだろうというほど言語能力を磨かれた人物ではありますが、その彼でさえ、精神的にも肉体的にもハード極まりないその仕事で、裁判が終わる頃には消耗しきってしまいます。

しかも、仕事がきつくなっていくのと同時進行で、家では妻の悪妻ぶりが度合を増し、一方、そんな彼を支えてくれていた恋人・梛子(なぎこ)は広島での被曝によって白血病を発症し、死へと近づいて行く。
物語の中の人物の話とはいえ、神様、これはいじめすぎではありませんか、と言いたくなるような、気の毒な境遇・・・。物語の中の人ではありますが、賢治にはモデルがいるのだそうですね。その方は、実際に賢治と同様、東京裁判でモニターの仕事をし、最後はやはり賢治同様、自殺してしまったのだそうです。賢治と同じに、つらい境遇に苦しみ、耐え切れずに自らの命を絶った人がいたと思うと、何とも心が痛みます。しかも、自殺された時、その方は39歳の若さだったのだとか。うぅ。

政治、まして国際政治となると、ついTVの中のことという感覚を持ちがちですが、自分の国が戦争に巻き込まれている時には、国際政治がまさに自分の毎日を決めるという状況に身を置くことになります。
さらにそんな中で、祖国と思える国が二つあり、その二つが相戦っていたとしたら――苦しいとか悲しいとかいうより、頭が混乱してどうにかなってしまいそう。
その意味では、二つの国の間で悩み、ついに死を選んだ賢治よりも、自分はアメリカ人だと割り切り、日本人をジャップと見下した彼の妻・エミーの方が楽だったかも知れません。ただそうなると今度は、自分ではすっかりアメリカ人だと思っているのに、白人のアメリカ人にはジャップ扱いされて、悔し涙にくれることになるのですが・・・。

それにしても人間というのは、理性で常に歯止めをかけないと、本能的には誰かを見下したがる動物なのではないかと思います。以前、「橋のない川」を読んだ時にも思ったことですが・・・。ある意味性悪説ですが、だからこそ性悪説的に、人間は理性を養わなければならないのだと思います。

東京裁判の話ですが、最近私は、時間的、地理的、あるいは学問的に範囲の広い題材について意味ある議論をすることについて、ヒジョーに無力感を募らせております。
感覚的に思うことはあるんだけど、それを確かに裏付ける情報を多く持っているわけではないので、ダベることはできても、意味ある議論ができないんですよね。

だったら勉強したらいいだろうってことでしょうが、世の中にはその必要がある話題が大すぎ。
こっちで原発の話をし、あっちで従軍慰安婦問題をし、さらにそっちでは消費税問題を議論する・・・なんて。せいぜい、アバウトに新聞を読んでぼんやりとニュースを見るぐらいのアタクシには無理ですよぅ。
他のアジアの国の人たちと、日本の戦争責任について議論するなんてこと、絶対避けたい!でも、そんな態度って、大人としてどうなんですか?やれやれ。

でも、それ言い出すと、意味ある議論は専門家にしか出来ないのかってことになりますけど。

過去の事件は、時々刻々と過去に遠ざかっていきますが、一部の記憶や感情は、時間の流れに押しやられることなく残る。そのまだら具合が、現在を難しくする。
そして、今現在のことであっても、立場を変えると見えるものはまるで違う。
ひとりの人間がその肩に負うにはあまりに膨大なものを、あまりに真面目に引き受けようとしたために、賢治はつぶれてしまったのですねぇ・・・。

webcitron01.gif


My Favorite Books(お気に入りの本のブクログ)
BOOKS INDEX(作家別感想文一覧)

関連記事
tag: 山崎豊子 
  1. 2013/10/03(木) 22:00:00|
  2. 2013
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0

トラックバック

トラックバック URL
http://lazymiki.blog110.fc2.com/tb.php/1623-d13c006b
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する