本と旅とそれから 想像ラジオ/いとうせいこう

本と旅とそれから

想像ラジオ/いとうせいこう

先日、義妹Kちゃんと書店をブラつきつつ、お互いあの本を読んだ、その本を読もうと思っている、とお喋りしていたとき、私がこの「想像ラジオ」を「図書館から準備できたって連絡来たから、近々取りに行くよ」と話すと、Kちゃんが驚いたように、「え、いとうせいこうって、「あの」いとうせいこうですか?「あの」?」と言うのですね。で、「そうそう、「あの」いとうせいこうだよ」と答えたものの、よく考えてみたらワタクシ、いとうせいこうという人のことをほとんど何も知らないのでした。
――「あの」いとうせいこうって、「どの」いとうせいこうなんだか^^;。

「想像ラジオ」

想像ラジオ/いとうせいこう(河出書房新社)

いとうせいこうさん、失礼いたしております。
一応Wikiなどもささっと見てみましたが、どうもいろ~んなことをなさっておられるようで、相変わらず私の頭の中では「よくわかんない有名人」ぐらいの、大変曖昧な人物像しか浮かびません。
なのでまあ、著者が何者かはおいておくとして。
直近の芥川賞の最右翼と目されていたものが、受賞を逃したということだったと記憶しています、本書。


で、もしかするとこのいとうせいこうさん、お笑い番組などに多く出演なさっているのかも知れませんが(自信なし)、本書にはまったくおふざけ的な姿勢はなく、始めから終わりまで、透明な、神々しいとさえ言えそうな空気が満ちています。

読んでいて、そして読み終えて、心がしんとするような、例えば、永遠に果てることのない一本道というものがあったとして、その始まりの場所に立って道の先を見はるかしたときこんな気持ちがするんじゃないか、と思うような、そんな感じ。
果てることのない、永遠に目的地に到達することのない道を目の前にしたら、虚しさや諦めや悲しさや、あるいはフラストレーションが心に湧くのではないでしょうか。でももしかしたら、同時に、そこにあるのが永遠の前進であると、たとえ僅かでも、明るいような気持ちにもなるかも知れない。

背景の説明は何もないまま、突然始まるラジオのDJトーク。喋っているのはDJアークなる人物です。
軽快な口調につられてすいすい読んでいくのだけれど、当初からの微妙な違和感が少しずつ募っていきます。なんなの、この想像ラジオって。
――といってもまあ、私は読む前から東日本大震災を題材にしたお話だと知っていたので、ぼんやりと想像はできたのですが。

でも・・・このDJアークのような、悲惨・・・というよりむしろグロテスクな状況が、実際にあったのでしょうか?・・・あったのかも知れない。きっとあったんでしょう。
津波に呑まれて死んでしまい、その体が何十メートルという高さの木の上にひっかかったまま取り残される。さらにはそこが原発による放射能汚染地域となったため、遺体は回収されることもかなわず、ずっとそのまま・・・。

自分の身に何が起きたのかもよくわからぬまま死者となった彼は、すっきり「あの世」へと去ることもできずに、木の上から不思議な「想像ラジオ」の放送を始めるのです。
リスナーは――。

私の「読み」の集中が足りないのか、実はこのリスナーの定義がいまひとつよくわからないんですよね。放送が聞こえる人と聞こえない人がいるんですが、普通に生きている人にはあまり聞こえないらしい。でも、絶対聞こえないってわけでもないらしいんですね。微かに聞こえるって人もいれば、楽曲リクエストまでできちゃう人もいる。
で、聞こえるといっても、そもそもそうした不思議な放送なので、それは聞こえる人にとってもかなり不思議なリスナー体験になるわけです。

ですが、想像ラジオのメインリスナーは、普通に生きてる人じゃなくて、亡くなっている人です。しかも、先の震災で、DJアーク同様、わけもわからず命を奪われ、この世を去るに去れない思いを残した人。というか、自分がそうした状況にあるのだということすらよくわかってない人。
ただ、それだけでもない感じなんですよね。そこのところが私には疑問で。具体的には大場キイチさん。あの人は、どうも今はまだ生きていて、でも今にも死にそうな状態の人って感じなんですが――。

ともあれ、数多くの人の魂に向けて放送される想像ラジオ。
DJアークの身の上話や、リスナーからの「お便り」など、普通のラジオトーク番組みたいな感じで進んでいくのですが、そのところどころに、するりと、穏やかな言葉で語られる悲惨な出来事が挿入されていて、恐ろしいような、悲しいような、慰めようのない人を目の前にして、でも慰めなければならない状況に立たされたような無力感のような思いが湧きます。

とてつもない悲しみや絶望に見舞われたとき、人間は自分の心を守るために、実にいろいろなことをするものとみえます。想像だったり妄想だったり忘却だったり・・・突然何かの神を信じ始める人もいれば、目には見えない霊の存在を確信し始める人もいる。
私自身を含め、人間が様々に魂の不滅を信じようとするのは、結局は自分を守るためなんだろうと思うのですが――それでも、それをやめられないんですよね。やめた時の寂しさが恐ろしくて。

本書のような物語も、そうした人の心の動きのひとつの表現なのかな、と思います。
時々は、ドキリとするほど激しい言葉が使われることもあるものの、しょっちゅう「あはは」と軽い笑いをまじえながら、淡々とトークを続けるDJアーク。読んでいて、著者の、亡くなった方々の魂に対する「安らかなれ、安らかなれ」という祈りのような思いを感じました。


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  1. 2013/10/16(水) 22:00:01|
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