本と旅とそれから かのこちゃんとマドレーヌ夫人/万城目学

本と旅とそれから

かのこちゃんとマドレーヌ夫人/万城目学

なんと可愛らしい!
「可愛らしい」という言葉の一番美しい意味において可愛らしい(わけわかりませんね)!

最近作が目下ちょっと追いついていないものの、万城目さんの作品は大体読んでいる私ですが、本書だけは読み残していました。それというのも、かつて誰からだったか、「あれは児童書だから」みたいなことを聞いていたからなんです。
今回は、図書館の文庫本の棚にたまたま見つけたので(←私の読書傾向としてよくあるパターン)、読んでみようかという気になりました。
「かのこちゃんとマドレーヌ夫人」

かのこちゃんとマドレーヌ夫人/万城目学(角川文庫)

この本の主人公のひとりは小学一年生の女の子・かのこちゃんです。で、もうひとりはアカトラの猫・マドレーヌ夫人。この二人を中心に、周囲の人々と猫々(?)が織りなす、愛すべき日常の美しき物語です。

万城目さんの、このかのこちゃんという女の子の描き方がほんっと可愛らしい。目の前にかのこちゃんの無邪気な姿が立ち現われて、むぎゅっとしてすりすりしてチューしたくなるような感じ(書いていて、かのこちゃんには迷惑だろうな、という気がすごくしますが)。


かのこちゃんのご両親がまたよいのですねぇ。
なんとなく、伊坂幸太郎さんの描く若夫婦のような、どこか冷めて飄々とした雰囲気を持っている一方で、育ちのよいきちんとした大人という行動も見せるお父さんとお母さん。その両親に、大切に大切に守り育てられているかのこちゃん。小学1年生の彼女は、幸せってものについてじっくり考えたことはおそらくまだないだろうけれど、彼女の毎日を読んで、これをこそ幸せな子供の日々と呼ぶのだ、と思う大人は多いことでしょう。

かのこちゃんにしてみれば、ただ毎日を丹念に暮らしているだけなのでしょうが、私の目にはなぜかその彼女の些細な行動や気持ちの動きが、ひとつひとつ特別なことのように感じられます。
ひとつには、かのこちゃんのような幸せな子供の幸せな日々というものが、私自身にとっては、すぐに手の届きそうなところにある、でも幻なのだと思うからでしょうか。そしてもうひとつは、さりげない情景を、さりげなく、でも特別に描写してしまう、著者の筆力なのかな、と思います。

そしてマドレーヌ夫人。
彼女は最初、野良ネコとしてかのこちゃんの前に現れますが、かのこちゃんの家の飼い犬、老犬の玄三郎と夫婦になったことによって、かのこちゃんの家の飼い猫ということになります。
この玄三郎とマドレーヌ夫人の犬&ネコ夫婦もいいんですよねぇ。夫婦がそれぞれお互いのために尽くす姿なんて、理想の夫婦像といえるのかも。

大人にとっては何でもないようなことが、子供にとっては一大事というのはよくあること。そうした「一大事」を巡る子供の懸命な姿は、傍らで見守る大人の目には愛おしくも微笑ましくもある。さらに、読者としての大人の目には、かなり笑えることでもあります。茶柱を巡る、かのこちゃんと、仲良し・すずちゃんの頑張り(?)は、温かい気持ちにさせられる、というのからちょっと進んで、軽く「ぷっ」ときます。

かのこちゃんの毎日は、大抵が穏やかな出来事の連続ですが、そんな彼女にもやっぱり「別れ」はやってくる。年老いた玄三郎との死別、そして外国に引っ越して行く親友・すずちゃんとの別れ。といっても、かのこちゃんにとっては、すずちゃんとの別れの方がインパクトが強かったようですが。
玄三郎との別れは、夫婦であるマドレーヌ夫人にとっては一層大きな悲しみであることは言うまでもなく、この別れのくだりは、犬猫人間関係なく、ひとつの「別れ」の情景に心揺さぶられます。

最近読んだ「旅猫リポート」にも、大切な人(こちらは本当に「人」ですが)と死に別れる猫の姿が描かれますが、どちらも、残される猫は大変毅然としています。決して悲しみに負けない。深く悲しみ、そして、また高く目を上げて歩き出す。何となく、猫ってそんな生き物なんだろうなってイメージはあるかも。深く愛すればこそ別れの悲しみは深いけれど、それでもその悲しみに負けない、というのは理想の姿です。

穏やかな幸せに満ちた穏やかな日々。マドレーヌ夫人にとっては、そこにちょっと魔法的なスリリングな出来事も加わったりしますが、その波乱さえも、「穏やか」の範囲を逸脱するものではなく、そのあまりの美しい穏やかさに、読んでいて「ああ、これが長く続くはずはない」という切ない気持ちさえ湧いてくるほどです。
案の定、玄三郎は亡くなり、すずちゃんは去っていく。
でも、かのこちゃんもマドレーヌ夫人も、別れを超えてまた歩いてゆく。かのこちゃんについていえば、どこかの啓発CMでかつて言っていた「愛されて育った子は強い」て感じでしょうか。

素敵な小説でした。

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「かのこちゃんとマドレーヌ夫人」万城目学

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