本と旅とそれから 悪の教典/貴志祐介

本と旅とそれから

悪の教典/貴志祐介

凄い~。この漢字の「凄い」がぴったりくる凄さっていうか。
久しぶりに、危うく電車を乗り過ごすところでした。大丈夫でしたけど。ギリギリで。

これまた、以前書店(私の場合、大抵は新宿サブナード内のあの店ですが)で大々的に平積みにして宣伝されていた本が図書館の文庫本棚に上下巻揃っているのを発見してすかさず借りて来た、というもの。――あまりにも頻繁に繰り返されるパターンなので、もう書くのやめようかな~^^;。
「悪の教典(上)」「悪の教典(下)」

悪の教典(上)(下)/貴志祐介
(文春文庫)


その宣伝というのは、たぶんこの小説が映画化された時のものじゃなかったかと思うんです――映画のポスターらしきものが貼られていたから・・・。伊藤英明さんが、飛び散った血の中でクールにこちらを睨んでたような。あの方が主人公・蓮実聖司(はすみせいじ)を演じられたんですね。

確かに、イケメンでカッコよくて、爽やかな雰囲気がピッタリですね。あとは、その仮面の下に隠した悪魔っぷりをどれだけ演技力で見せられるかってとこでしょうか。

貴志作品は「新世界より」(►感想文はコチラ)に続く2作目。貴志さんといえばホラー作家というイメージが、作品を読む前からがっちり出来上がってしまっているワタクシ。その割には「新世界より」は怖さの要素があまりなかった記憶ですが、本作「悪の教典」は、怖かったです。

でも、怖さにも結構種類があるものですね。
亡霊幽霊怨霊祟り系の怖さっていうのも、語り手がよいととんでもなく怖いですよねぇ。夜中にトイレに行けなくなる、というフレーズに象徴される状況に読み手は陥る。
その一方で、夜道をひとりで歩くとき、誰もいなくて幽霊が出て来るかも知れない怖さと、向こうから知らない(そして何だかアヤシイ)人がひとり歩いて来るときの怖さはどちらが大きいか。
まあ、大の男の人なら、幽霊の方かも知れませんが(それも変?)。

いやつまり、幽霊より怪獣より怖いのは人間じゃあないのかい?
・・・ということをぐいぐい突き付けてくるのが、他人に害をなす類の狂気に陥った人間、あるいは人間の皮を被ったバケモノを描いた話です――「悪の教典」のような。

危険な狂気に囚われれば、どんな種類の人間でも危ない存在であることは間違いありませんが、本書の主人公・蓮実の場合、外見からはそれがまったくわからないうえ、その頭脳は天才と呼べるレベルにあることで、危険度が飛躍的に高いものとなります。
なんでこの男はこんなことまで知ってるんだ!体術を使った殺人方法、銃器の扱い、プロの殺し屋もかくやと思わせるような、人を殺す際に注意しておくべき細々とした事々。

アメリカの大学(たぶんハーバード)を出て、さらにMBAも取り、モルガンスタンレー(とは書いてないけどほとんどそう)で優秀なトレーダーとなったけれど、仔細あって金融業界を離れ帰国し、ほんの偶然から高校教師となる。そしてそれが「天職だ」と気付く。
それは、彼が、人の心を掌握する術に長けていたからなんですけどね。迷惑千万なことに。

もともと天才のうえに本場アメリカ仕込みなだけに、蓮実の英語はバツグンで、彼の授業は生徒の気をそらすことがありません。しかも彼は自ら志願して、他の教師が面倒くさがる生活指導担当となります。
その授業についてのノウハウやら、生徒の生活指導に当たる姿勢などは、それだけ見ればまさに素晴らしい教員の姿にほかなりません。

上巻前半はそういったよく出来た先生としての主人公の様子を描くことに費やされているんですが、それが少~しずつねぇ・・・。庭にやって来ては蓮実をうるさがらせるカラスを殺すあたりから・・・。
現在の殺人の様子や、折にふれて蓮実の脳裏に蘇る、過去に犯した殺人の記憶。段々とその描写の間隔が短くなってきて、そして最後には怒涛の大量殺戮の夜を迎える。

「新世界より」でもそうでしたが、殺人の描写が生々しいのが読んでいて少々辟易させられます。
が、それが読み手に心理的な影響を与えて、それに基づいた物語世界のイメージが作られていくことはもちろん意図されたものでしょう。描写を読んでいるだけでげっそりしてくるものを目のあたりにして・・・てか、自分でその殺人を実行しておきながら平然としている蓮実の姿、それがホラーなのです。

・・・良心の呵責や、露見してしまうことへの恐怖を感じることがなかったら、「人を殺す」という行為すらも軽いことなんでしょうか。あ、あと、「殺す」ことへの生理的嫌悪感も、かな。ちなみにどうやら蓮実にはこれらの感覚、ないみたいです。
ですから、精神的に欠落した部分があることは明らかですが、それを隠すのに十分なその他の才能をありあまるほど持っている彼なのでした。

そして、殺すことを厭わぬ人間(=蓮実)と、通常の感覚を持つ人間(=生徒や同僚教師)が戦うことになった時、そして殺人者の手に猟銃があったとき、それが1対40(ぐらいだったかな?まるまるひとクラス)だったとしても、ふつうの善良な人間たちは呆気なく斃されてしまうのですねー・・・。うぅ。

現実の世の中に、蓮実的な人っていたりするのかしら。
たま~に、とんでもないシリアルキラーが逮捕されたっていうニュースを聞いたりしますが・・・今日現在、まだバレることなく、人を殺し続けている殺人鬼って。数は少ないでしょうけど、いるんだろうなって気、しますね。うひひ。


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  1. 2013/12/28(土) 22:00:00|
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