本と旅とそれから かばん屋の相続/池井戸潤

本と旅とそれから

かばん屋の相続/池井戸潤

タイトルからすぐに連想されるのは、京都の一澤帆布の相続騒動。それを読みたくて借りてみました。長編かと思ったら、6つの話を集めた中編集でした。

面白かったです!
中・短編集というのは、私の場合あまり期待せずに読んでそこそこでOK、という感じなのですが、嬉しい誤算で、かなりの読み応えがありました。
「かばん屋の相続」

かばん屋の相続/池井戸潤(文春文庫)

池井戸潤さんといえば、直木賞を取った「下町ロケット」――よりもやっぱり、「半沢直樹」の原作者ですかね、今的には。そちらの方も読んでみたい気はしますが、予約がつまっていそうなので、今のところはまだ敬遠してます。

表題作は最後に収められています。舞台は東京大田区ですが、巻末解説によれば、やはり基本のアイディアは一澤帆布の一件だとか。


かばん屋さんの相続が、元銀行員の兄と家業に熱心だった弟の間で揉めて、追い出される形になった弟の方に職人たちがごっそり付いて行ってしまった、その弟が、兄の継いだもともとの店のすぐ近くに自分の店を構えた――というあたりが、一澤帆布の実際のケースと共通。ですが、その後の経過と結末は、小説オリジナルのようです。

というか、私は一澤帆布相続騒動のその後を全然知らなかったので、今回ちょっとウィキを覗いてみたんですが――あー、現実の方が小説よりはるかに複雑でぐちゃぐちゃしているんですねぇ。当事者の兄弟も、二人じゃなくて三人なのか。先代の遺言書の真贋についての訴訟は、最高裁まで行って、いったん判決が出たにもかかわらず、さらにまた原告を代えて争っているようですが、その後どう結論が出たのか、見つけられませんでした。

小説にも先代の遺言状は登場し、その真偽が疑われるのも同じですが、小説では追い出される弟が訴訟を起こしはしません。現実よりも泥沼度合はかなり低く描かれているようです。
割とシンプルに、銀行員出身の兄側がワルモノ、弟側が被害者って感じですね。
ですが、物語の視点はこの両者のどちらでもなく、それを第三者として見守る地元信用金庫の担当者のものです。

この本に収録の6編のうち、4編までが、地元の中小企業を担当する金融機関の融資担当者の目を通した物語。特に、その担当者が特定の会社にある程度深い思い入れを抱いている場合の話になっています。
で、小説になるからには、そうした企業は資金繰りに苦労し、担当者はそれを何とか支えられないかと奮闘する。

地域に密着の地銀や信金というのも、描く人が描けばドラマチックな物語になるのですねぇ。
そういえば「ハゲタカ」なんかにもそういう場面がありましたっけ。あれは外資ファンドなんかも登場する大型M&Aがらみの話でしたけど(原作は読んでなくて、TVと映画だけですが)、主人公の二人はもともと同じ銀行の出身で、やはり中小企業への融資がらみで苦しい物語を背負っているという設定でした。
そういえば、あのドラマでも、「半沢直樹」同様、主人公は町工場でネジを握りしめてましたっけ。

ま、それはともかく、本書に収録の物語にも、お金に苦しめられる様々な人々の姿が描かれているのですが、そして、ハッピーじゃないエンディングもあるんですけど、でも何となく空気が明るい。ちょうど表紙の、晴天下の桜咲く風景のような、どこかにまだ何か救いがあるんじゃないかと思わせるような・・・。
それはやっぱり、人間の描かれ方にあるんじゃないでしょうかね。

世の中の人が、もともとは全員が善意で行動したとしても、人間の力の及ばない出来事とか、誤解とか、様々な要素で不幸は生まれる。でもそれは見方を変えれば、どんな不幸にも、探せば人の善意が見つかるんだよ、というような――なんか、そんな感覚が、物語のすべてに漂っている気がしました。


webcitron01.gif


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  1. 2014/02/28(金) 22:00:01|
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コメント

この人って、もともと銀行員だったっけ?大阪の人で、合併だらけで元の銀行がどこだったかさっぱりわからないけど、住友だかどっかにいた??
下町ロケットのドラマが始まったので録画したよ~。半沢も原作どまりで録画はいまだに見てないから、忘れないうちに見ようと思っちゃいるけど。
お金に直接関係する商売だから、人間のいろんなところを目の当たりにすることが多いんだろーな。
そして、描く人が描くとすんごいドラマになるのだね、きっと。

死神の続きと共に、ブログ読んでこれにも興味持ったよ~ん。
  1. 2014/03/03(月) 00:41:33 |
  2. URL |
  3. しの #2nAugjbc
  4. [ 編集 ]

しのちゃん、

三菱銀行の人だったらしいよ(Wikiによれば)。
半沢直樹のTV、面白かったよ。原作はまだ読んでないんだけど。
(しのちゃんの言ってる「下町」は、「下町ボブスレー」じゃないかな?)

この「かばん屋」には、お金を巡る物語が幾つか収められているんだけど、お金の話というと何だかイヤなものかと思いきや、何だかそうでもなくて、読み物としては楽しめたと思うな。
「死神」は、キャラは好き、シチュエーションは嫌い、みたいな、何ともよくわからん読後感の残った本でした^^;。

コメントありがとねー。
  1. 2014/03/03(月) 20:26:57 |
  2. URL |
  3. lazyMiki #Dud4.962
  4. [ 編集 ]

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