本と旅とそれから 風の中のマリア/百田尚樹

本と旅とそれから

風の中のマリア/百田尚樹

ようやくかなった、百田尚樹作品私にとっての第一作。
今、一番話題になっている作家さんのひとりですものねぇ。ずっと読んでみたいと思っていたのですが、予約待ちが長くなりそうなのでなかなか手を出せずにいました。

「風の中のマリア」だなんて、ちょっと少女マンガのようなタイトルですが・・・いえいえ、とんでもない。
「風の中のマリア」

風の中のマリア/百田尚樹(講談社文庫)

大変グロテスク。鳥肌が立つような恐ろしさ。なのにとても面白い。
本書の主人公は、オオスズメバチのワーカー(働きバチ)・マリア。
「偉大なる母」と崇められる女王蜂・アストリッドを頂点に、巨大な巣に生きるハチたちはすべてメス。つまり、彼女たちは全員が姉妹です。

母・女王蜂への敬愛と忠誠。仲間のハチたちへの姉妹としての、また同胞としての強い愛情。その思いにもはるかにまさる、一頭のハチとしての本能。


こう書いてみると、同胞愛も本能の一部といえるでしょう。

グロテスクだという思いが強いのは、私が虫嫌いだからというのも大きいでしょう。
ネイチャー番組でも、「今日の主役は虫です」となると、すぐチャンネル変えるワタシです。ただ、ハチはちょっと例外の感もあります。ハチには興味がなくもないんです。あの社会性みたいなもの、好奇心をひかれます。といっても、同様の社会性を持つアリはダメです。あれは気持ち悪くて。

オオスズメバチを中心に、様々なハチの生態や、互いの関わり(ほとんどが捕食するもの・されるものの関係ですが)がいろいろと描かれ、昆虫学的な記述は、純粋に科学的に正しいもののようです。
ネイチャー番組で見たことのあるハチの不思議にして恐ろしい行動も多く語られています。何より凄まじいのが、オオスズメバチによるセイヨウミツバチの巣の乗っ取りの場面。数頭のオオスズメバチで、何万というセイヨウミツバチを全部殺し、その巣の中の幼虫とサナギをエサとして奪取するのです。
凄まじい規模の殺戮。まさにジェノサイド。

あ、あと、年老いた女王蜂を殺すくだりも、凄まじいというか何と言うか・・・。
年老いた女王蜂は、かつてオスバチと交尾して得た精子を使い果たし、それまでメスバチ(=ワーカー、つまり働きバチ)ばかりを生んでいたものが、無精卵のオスバチばかりを生むようになります。
そうすると、それまで女王蜂を「偉大なる母」と呼んで崇めていたワーカーたちが、女王蜂を殺す。

なぜそんなことになるのか、という遺伝学的な根拠は、数値と図まで使って説明されています。
それにしても・・・。

本書の文庫版の巻末解説は養老孟司さんが書いておられるのですが、私の読後感想はほとんどここに述べられているなーと思いました。

ハチは考えないはずだし意識してないはず。そこのところは小説だというしかあるまい――だけど、そもそも意識とは何なのか。その科学的な解明はいまだなされていない。

というようなことを書かれているのだけれど、まさにそんな思いが、読んでいて頭に浮かびました。
意識って何なの?本能って何?
たとえばマリアたちがセイヨウミツバチの巣を襲う場面では、最初はあれこれと考えていた彼女たちが、ある時点からその思考をなくします。そこにはマリアの個性というようなものはなく、それは巣を襲うオオスズメバチの数が3頭に達した時点で、ほとんど「自動的」に出現する状況なのでした。

・・・うん。この話も、どっかのネイチャー番組で見たことあります。

それはあたかも、意識が本能に乗っ取られる状況に見えます。でも、意識って何、本能って何という具合にその根本的な定義を考えていくと、そのすべてが単なる自然現象なんじゃないかとも思えてくるのでした。
それが恐ろしいとか凄まじいとか思うのは、ただただ人間の解釈にすぎない、と。

そして一方で、迷いのないマリアの生き方に、かすかな羨望を感じたりもするのでした。
まあおそらく、私に選択の余地を与えられたとしても、本能に基づいた単純な生き方を選ぶことはないでしょうが、でも、日々の行動に迷いがなく、その生き方に喜びを覚えることができるなら、それは幸せな生ということになるのでしょう。といっても、意識やら本能やらが何なのかがはっきりしないレベルで話をするなら、幸せとか生ということすら、それっていったい何ってことになりかねませんけどね。

あーそれにしても、人間の物語ばっかり読んでいる中で本書のようなユニークな設定の小説に遭遇すると、何とも新鮮です。怖いですけどね。
早いとこ、ほかの百田作品が借りられるようになって欲しいものです。


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tag: 百田尚樹 
  1. 2014/06/22(日) 22:00:01|
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