
タッ・・・タイトルが怖くありませんか?
昔の横溝正史さんの本に「病院坂の首くくり(←ここは漢字で)の家」というおどろおどろしい題名がありましたけど、首折り男っていうのも~。
本の方は、私はとても楽しめました。
首折り男のための協奏曲/伊坂幸太郎(新潮社)あとがき・・・というか、巻末の短いメッセージの中で伊坂さんご自身が書いておられるように、本書は、収められた7つの短編が緩やかにつながっていて、「首折り男なる人物の話であったものが、いつの間にか黒澤という泥棒の話に変化していき、それがまた首折り男に繋がり」という不思議な本となっています。近年、忘却という能力をフルに発揮している私なので確かには言えませんが、この黒澤氏は、これまでの伊坂作品にもちょくちょく顔を出している御仁だったような。
伊坂作品の多くには、殺人や拷問などといった、人間のしでかす最悪行為が盛り込まれています。ところが奇妙なことに、伊坂さんがそうした最悪行為を描くと、なんというかこう・・・あまり最悪に見えないことが多い。作品によって醸し出される雰囲気はもちろん違いますけど、殺し屋が登場するのに明るかったり、時に滑稽だったり。
このアンバランスさについて感じる居心地の悪さが強い人には、伊坂作品は受け入れがたいのかも知れないと思うのでした。人が殺されるのを見て、笑っていいのか?――みたいな。
首折り男とは、読んだまま、人の首を折る(そして、殺す)ことを生業としている男のこと。プロの殺し屋です。伊坂さん描く「死神」とよく似て、この首折り男も、喜怒哀楽を超越したような、滅多に感情を顔に表さない、冷静とも無表情とも見える男に描かれています。そして何だかこの人物は、「時空のねじれ」とかいう現象を経験することがあるらしく――。
伊坂さんの巻末メッセージにもあるように、本書に収録された短編は当初は1冊の本にまとめることを意図されてはいなかったそうで、緩く繋がっているとも言えますが、バラバラ感があるとも言えます。つじつまが合っているようでもあり、合わないところが残っているようでもあり。でも、私には、それはほとんど気になりませんでした。
伊坂さんの物語というのは、何でこう軽々と、あっちへ行ったりこっちへ行ったりするんでしょうねぇ。
人の心や、時間や、運命や成り行きや・・・一方方向に進むこと、流れることが当たり前と思われることが、ふいっと行く先を変えてしまう。読み手が「えっ?えっ?」と目を見張っているうちに、物語はひょーんとトンボをきって思いもかけないところに飛んでゆく。
その動きの鮮やかさが、「やられた!」感が、何だか爽快で、殺し屋の話ですら、笑えてしまう。
殺し屋の人助け。どれだけ小さな善行を重ねたところで、意図して人の命をひとつ奪えばそれっきり、というのが人間の世の掟なんだけれど、でも、物語だから。ホントじゃないのだし。
この、何とも言えない、あり得ない感覚が、伊坂作品の魅力かしらと、思ってみたり。
そして最後に思いがけず流れるピアノのメロディー。ああ、透明だ~。

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伊坂幸太郎
- 2014/09/02(火) 22:00:02|
- 2014
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| トラックバック:2
-
| コメント:4

首折り男は首を折り、黒澤は物を盗み、小説家は物語を紡ぎ、あなたはこの本を貪り読む。胸元えぐる豪速球から消える魔球まで、出し惜しみなく投じられた「ネタ」の数々! 「首折り男」に驚嘆し、「恋」に惑って「怪談」に震え「合コン」では泣き笑い。黒澤を「悪意」が襲い、「クワガタ」は覗き見され、父は子のため「復讐者」になる。技巧と趣向が奇跡的に融合した七つの物語を収める、贅沢すぎる連作集。
「首折り男の...
- 2016/06/14(火) 12:42:34 |
- 粋な提案
「伊坂幸太郎」の連作短篇作品『首折り男のための協奏曲(英題:a Concerto)』を読みました。
[首折り男のための協奏曲(英題:a Concerto)]
『3652―伊坂幸太郎エッセイ集―』に続き、「伊坂幸太郎」作品です… 先月に読んだ『火星に住むつもりかい?』以来、6作連続で「伊坂幸太郎」作品ですね。
-----story-------------
殺し屋の名は、首折り男。
彼を巡...
- 2019/10/07(月) 20:30:47 |
- じゅうのblog
こんばんは。
自分も「首折り男のための協奏曲」読みましたよ。
面白いですよね。
小気味良いトリックが盛り込まれているのも良かったです。
そのうえ黒澤の展開する洒落のきいた会話にくすりとしてしまいましたよ。
確かにあり得ない感覚が伊坂さんの魅力なんだと思います。
- 2014/09/03(水) 18:57:09 |
- URL |
- 神崎和幸 #-
- [ 編集 ]
こんばんは。
コメントありがとうございます。
ドロボウの黒澤さんは、本人は真面目に喋っているのに言葉はトボケているのが、読んでいると笑えますね。
本を読んで自分が感じたことを文にするのってなかなか難しいことですが、伊坂さんの作品の感想文は一層その感が強いように思うのでした。
- 2014/09/03(水) 23:56:04 |
- URL |
- lazyMiki #Dud4.962
- [ 編集 ]
好き嫌いが分かれる作品ではないかと思いますが、
私には短編として読んでも面白かったです。
今回も存分に楽しむことができて全体的に満足でした。
トラックバックさせていただきました。
トラックバックお待ちしていますね。
- 2016/06/14(火) 13:17:39 |
- URL |
- 藍色 #-
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好き嫌いが分かれるか、と言えば、そもそも伊坂さんの作品が全体的に好きか嫌いか、で分かれるのかな、と思います。
私は好きだと思える伊坂作品が多いのですが、「どこがよいのかわからない」と語る人も結構いるようなのですね。
楽しめて満足できれば、それがハッピーですね^^♪
TB、ありがとうございます。
私も送らせて頂きました。
- 2016/06/16(木) 22:57:46 |
- URL |
- lazyMiki #Dud4.962
- [ 編集 ]