本と旅とそれから 砂の王国/荻原浩

本と旅とそれから

砂の王国/荻原浩

友人が、「読み応えがある」と紹介してくれた本。
荻原浩さんって知らなかったのでちょっとググってみたら――あ、「明日の記憶」の作者さんなのか!
といっても私は、「明日の」の原作を読んだことはなくて、渡辺謙さんの映画・・・を、TVで見たことがあるだけなのですが。あれも、決して「楽しい」とか「爽やか」という物語ではなかったけど、やっぱり、「見応え」があったなぁ・・・。
「砂の王国」

砂の王国(上)(下)/荻原浩(講談社)

主人公の一人称で語られていく物語。
物語のスタート時点で、元証券マンの主人公・山崎は、あれこれあってホームレスの身の上。公園で寝泊まりするうち、たまたま知り合ったもうひとりのホームレス・仲村と、道端で占いをしていた龍斎の三人で新興宗教団体を立ち上げます。
その新興宗教「大地」は、仲村の教祖としてのカリスマ性と龍斎の文才、山崎の巧みな組織運営でどんどん会員を増やし大きくなってゆく。そして――。

最初の数十ページは、「げげ、どうしよう、こんなどんより重い話を上下二巻分読み続けられないかも」と思ってしまいました。不慣れなホームレス生活に、その日の飢えをしのぐ食べ物さえ満足に手に入れられない主人公のみじめな生活。読んでいるだけでこちらの元気まで吸い取られていくようで・・・。

その後、主人公が心機一転(?)、イカサマ宗教団体を立ち上げる話に入ると、それなりに元気もスピードも出てくるのですが――でもやっぱり、読んでいる頭のどこかに、破滅の予感みたいなものが常にありました。たとえば「アルジャーノンに花束を(/ダニエル・キイス)」とか、"Rage of Angels(天使の自立/シドニィ・シェルダン)"などを読んでいた時と同じ・・・といっても、この二作読んだのって何十年前のことサ、なのですが。
物語が快調に進んでいても、絶対にこのまま上昇が続くことはない、必ず遠からず奈落に落ちるのだ、という確信があるので、のんびり楽しんでいられないのですね。

ただ、かなり終盤になるまで、私はこの「破滅」は、宗教団体のイカサマが露見して警察につかまる、という形で訪れるのだろうと思っていました。それが・・・本書のこの展開は、星新一さんのショート・ショート「かわいいポーリー」だな。最後のオチがブラック・ユーモアというか、ドキッときつつ、苦笑も湧き、だったっけ。って、こちらも何十年前の記憶です。

例によって、巻末には「この物語はフィクションで実在の団体とは関係ない」との断り書きがありますし、例えばどこに取材して本書が書かれたのかといった記述はありません。でも、実際の新興宗教団体の関係者に取材していないはずはないし、世の中を騒がせたあちらこちらの新興宗教団体を思い出させる記述もあります。
・・・何しろ今の世の中、大小さまざまの宗教団体だらけですからね。

そもそも宗教って何なんだ、とか、ちょっとうんざりした思いで考えてしまいます。
教祖がイカサマでも、教義がでっちあげでも、信じた者の心が救われればそれは宗教って呼べるのかしら。・・・なんだか、その問いの答えが「イエス」なように思えてしまって怖い。
逆に言えば、教祖(とか宗祖とか)がどれだけ苦難と戦って、人々を救いたいとの思いから教えを説いても、それが人々に受け入れられなければ、それは宗教として成立しない。・・・結果がすべてだとしたら、ビジネスと同じ・・・なのかなぁ・・・。
エンターテイメント業界と似てますか・・・って、あまりにバチ当たりな考えな気もしますが。

ちょうど本書を読み終えようとしていた頃、嵐がハワイで開いたというコンサートのニュースを見たのですが、嵐の面々はナント、ヘリコプターで会場に到着、時刻はちょうど夕暮れ時、その夕陽にステージが照らされてドラマチックな効果があった、と伝えておりました。
・・・やっぱり、宗教とエンタータイメント業界は共通点が・・・。

「宗教は精神の麻薬である」というのは、最近聞いたフレーズです。確か、中東の「イスラム国」絡みの文脈だったと思いますが、ホントにそうだと思います。ちょっとした好奇心から手を出してハマってしまうと、抜け出せなくなり、やがて財産も何もかもそれに注ぎ込むことになる。
でも、国によっては、文化圏によっては、特定の宗教=文化だったりしますからね。生まれた時からその「麻薬」のまっただ中というわけで。

人間って、そうした生き物なんでしょうね。ホント、変な動物だわ。・・・敬虔な〇〇教徒から見たら、これといった信仰を持たない私の方こそ、よっぽどヘンなんでしょうけど。

読んでいてちょっと情けなかったのが、自分が主人公に結構シンパシーを感じてしまったこと。
悪人になりきれない小心者のところなんかねー^^;。
そして、結局彼は、仲村と龍斎の人物を読み切れなかった。甘かった。そんなところも、「無理もない。ワタシだってそう思うわよ」とかね。
最初から悪人丸出しだった龍斎はともかく、無垢な少年のようだった教祖・仲村が、まさに天使の皮をかぶった悪魔のようだった、とは、どうしてわかるでしょーか!でも、龍斎は、最初からそれを見透かしていたらしいセリフがあるのでした。不気味な予言のように、印象的です。

読後感は、少なくとも私はあまりよくなかったのですが、ただ、読んでいて多くのことを考えさせられたという点で、友人が言ったようにまさに「読み応えがある」小説でした。
同じ作家さんの本を、ぜひほかにもまた読んでみたいと思います。


webcitron01.gif


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tag: 荻原浩 
  1. 2014/10/19(日) 22:00:00|
  2. 2014
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そーそー、明日の記憶の人なんだわー。
読後感は(同じく映画しか知らないので読後感とは言わない?)、砂の王国の方が個人的にはまだ明るいかも…。
  1. 2014/10/25(土) 15:51:13 |
  2. URL |
  3. しの #2nAugjbc
  4. [ 編集 ]

しのちゃん、

紹介してくれてありがとう^^。

「明日の記憶」は・・・悲しい物語だものねぇ。
「砂の王国」は、展開が本人の意図したものとは違うとはいえ、本人の行動がもたらした結末だけど、「明日の」は、病気だからねー。
  1. 2014/10/26(日) 22:09:20 |
  2. URL |
  3. lazyMiki #Dud4.962
  4. [ 編集 ]

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