本と旅とそれから 一瞬の風になれ/佐藤多佳子

本と旅とそれから

一瞬の風になれ/佐藤多佳子

ちょっと間が空きました――一番の理由は・・・何だろう、そうだ、プールを再開したことかしら。
年末のインフルエンザに始まる体調不良が一月に入ってもぐずぐずと続いていたのですが、何とか回復したのでまたプールに行き始めました。すると、夜は怒涛の睡魔に襲われ、ブログに手が回らなくなりました。・・・まあ、単にブログ無精だっただけ、とも言えますが。

それにしても今年という年は、明けてからのひと月で、どれだけ作家さんの訃報を聞いたことか。
その最初が宮尾登美子さんでした。最近はそういえば新しい本が出ていなかったけれど・・・そうですか。もうあの、優雅さと重厚さを併せ持った文章で新しい物語が紡がれることはないのですね・・・。
さて、ようやく今年最初の本読み感想文です。
去年もそうだった記憶がありますが、今年も、最初に感想文UPの三作はどれも大変素晴らしい物語でした!なかでもこの「一瞬の風になれ」はもう、感動しまくり。
この世の邪悪にヘタりかけた心を励ましてくれる爽やかな光のような物語です。


「一瞬の風になれ」


一瞬の風になれ 第1~3部/佐藤多佳子(講談社文庫)

(ブログに画像をUPして初めて気づきましたが、表紙の絵は三作つながっているのですね!)
佐藤多佳子さんの作品は、これまで「黄色い目の魚」(感想文►コチラ)と、「しゃべれどもしゃべれども」(►コチラ)しか読んだことがありません。
どちらもとても楽しめて、作家さんの力を感じた物語でした。

佐藤多佳子さんて寡作なんですよね。もっとたくさん読みたいのに、作品がない。
そんな中、この「一瞬の風になれ」を読みたいとずっと思っていたのですが、うちの図書館で三冊まとめて借りられることがなくてかなわずにいたのです。それが、うちの図書館が耐震工事で閉鎖になり、仕方なく別館に行ってふと見ると、文庫本の棚に、ずらりと三冊!「でぇぇ~ぃ(^0^)/!」と喜んで借りて来たのでした。

第一部イチニツイテ、第二部ヨウイ、第三部ドン。
主人公・新二が陸上競技(ショート・スプリント)に打ち込んだ高校の三年間を一年一部で綴った物語。
主人公の一人称で語られていきます。

いやもう。ただただ感動。
新二とその仲間、先生、親兄弟の姿がまぶしい。あまりにも清々しい。
途中で、「さすがにここまで美しい高校生の世界は現実にあり得ないだろう」という考えがよぎり、漠然とながら「でも別に、物語として楽しめばいいよね」という気持ちで読んだようには思います。
ところが。文庫版の「あとがき」代わりに、佐藤さんが取材した某高校陸上部の面々との座談会が収録されているのですが、その中に、「いまどきこんな健全な高校生がいるわけない、と言われると、『いやいるよ、ここに』と言いたくなるのです」という、その陸上部のコーチの言葉があるんですよ。

嬉しい。
いるんですね。物語に登場するような、まっすぐで、瑞々しい魂と、若々しい力強さをそなえた高校生がいるんですね。興味本位で人を殺すような若者がホントにいる一方で、仲間と一本のバトンをつないで走るというそのことに、心の底から感動し、周りにやめろと言われてさえそのために自分を鍛えようとする若者もホントにいる。

個人競技の100m、200m走に打ち込む姿もよいのですが、さらに感動的なのがリレーです。
ワタクシ、これまでもまあオリンピックのリレー競技などはそれなりにワクワクしながら見ましたが、これからはもっと感情移入して見るだろうなと思います。オリンピックだけじゃなくて、これからはインターハイの中継とかも見ちゃいそう。
思えば、リレーというのは走るのが小学生であってもエキサイトする競技ですもんね。

とはいえ、競技の中継でも見せるのならともかく、文字でそれを描写して、読み手を感動させるって。
やっぱり作家さんの力を感じます。
「バッテリー」(感想文►コチラ)とか「風が強く吹いている」(►コチラ)などと、ジャンルとしては同じでしょうか。スポーツ友情モノ、とでも。
どれもむちゃくちゃ感動しましたっけ。

同じ競技に打ち込む親友が身近にいる。さらに、親友とまでは呼ばないながら、やはり共に頑張る仲間がいる。さらに、対戦する他所の学校の選手たちが、最初は単なる競争相手だったものが、次第に互いに敬意を抱き合うライバルになっていく。そして、大人としての立場から、支え、導いてくれる指導者がいる。そして、親兄弟。
昨今の小説では、親子や兄弟のぐにぐにと曲がりくねった関係が描かれることが多くて時に辟易させられますが、「バッテリー」やこの「一瞬の」の兄弟の姿には本当に心が温まります。
兄に憧れ、慕う弟。弟を可愛がり、応援する兄。

自分があまりにもそのまっとうな姿に感動するので、不思議なほどです。
そしてふと思うのは、「バッテリー」にしろ「風が強く吹いている」にしろ「一瞬の風になれ」にしろ、描かれているのは、女性が憧れをもって描く理想の若者(群)像なのかも知れない、ということ。
・・・そう言ってしまうと、作家さんたちは怒るような気がしますが。そんな浮ついたもんではない、と。

そして、主人公の仲間のひとり、根岸クンに感動しました、私は。
主人公・新二やその親友・連は、タイプは違うものの才能豊かなランナーで、リレーチームを引っ張るメンバーなのですが、根岸はあまり速くありません。最初は4人のリレーメンバーに入っていたのですが、下級生に速いのが入って来て、メンバーからはずれることになります。
その彼が。懸命にその下級生の指導をする。そして、自分がメンバーのときには果たせなかった高速バトン・パスが出来たとき、心から喜ぶ。その姿が泣かせます。根岸ィィ。なんちゅーいいヤツ。見た目はネアンデルタール人もびっくりってハナシですが――都合よくそこは忘却。

リレーのバトンってすごいんですねえ。
心をつなぐという意味では駅伝のたすきも同様かと思いますが、100m×4(4継・ヨンケイというそうです)のようなショート・スプリントのリレーは、その技術もすごい。いったいどれだけ練習するのだ、彼らは。

練習シーン、そして地区、県、関東と様々なレベルの競技シーンで、何度も描かれるレースの様子。そのすべての描写に感動があり、佐藤多佳子さんの筆力にうなります。
佐藤さんも最初は、陸上についての知識は私と大差ないレベルだったというのですから。プロの物書きってホントすごいわ。毎度思うことですが・・・。

webcitron01.gif


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  1. 2015/02/01(日) 22:00:02|
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lazyMikiさん、素敵な本のご紹介ありがとうございました!
いつもlazyMikiさんのところで記事を読んで「ん!これは面白そう♪」と思うとそのときはサラッとだけ記事を読んで、実際に自分がその本を読み終ったらじっくり感想を読ませていただいています~。
(今回単行本を借りて読んだので文庫本の座談会を読めてないので、そこだけ読みたいです(笑))

それにしても清々しいお話でした。
昨今ちまたでは殺伐としたニュースや痛ましい事件がたくさん溢れているし、ベストセラー本も殺人がらみのものが多いのがどうも嫌で。。やっぱり読書はやっぱり爽やかな読後感がいいな~と思っていたところだったのでどんぴしゃでした。また参考にさせていただきます♪
  1. 2015/04/06(月) 22:04:29 |
  2. URL |
  3. lundi #dkQVFjxY
  4. [ 編集 ]

lundiさん、

こちらこそ、駄文を二度も読んで下さってありがとうございます。
文庫本って、単行本にはない巻末の「あとがき」部分が面白いことがありますよね。文庫版「バッテリー」のあとがきは確か三浦しをんさんだったし^^。

最後の、新二と連のレースの顛末はどうなったのでしょうねー。
そして二人は大学に進んで、インカレでも競うのでしょうか。でしょうね。
人は、殺し合う代わりに駆けっこで物事を決めるってわけにはいかないのでしょうか。
先日、日本人で初めて9秒台を出した桐生選手が、「一瞬の」の仙波くんのイメージに重なりました。
  1. 2015/04/07(火) 21:58:43 |
  2. URL |
  3. lazyMiki #Dud4.962
  4. [ 編集 ]

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