本と旅とそれから ストーリー・セラー/有川浩

本と旅とそれから

ストーリー・セラー/有川浩

この本、文庫版が出たのは昨年12月だけれど、単行本が出たのは2010年なのですね。読み終えて、つい気になってネットをちょこちょこググって、たぶん大丈夫なのだろうと半端ながら安心した次第です。
・・・と、いいますのも。

女性作家とその夫が主人公の本書。ふたつの物語で構成されていますが、前半は、妻である作家の方が死ぬ話。後半は夫の方が死ぬ話。そして、最後に短い文章。この最後の2ページがクセモノ。形からすると「あとがき」、つまり、作品とは別個の、現実の作家からのメッセージのように見えるんですが――それを読むと、現実の有川さんのダンナ様が重病で死にそうなのではないかと思えるんですもの。
ストーリー・セラー

ストーリー・セラー/有川浩(幻冬舎文庫)

それについてはたぶん、有川さんのいたずら(?)だったと思うのですが・・・。

本書を手に取ったのは、単にうちの図書館の蔵書検索で有川さんの近刊を探して借りたということなのですが、読み始めてみたら死別がテーマで、「タイミング的に失敗したかな」と思いました。病院のシーンなどもあるし、家族が徐々に死に向かっていくのを見守る者の心理などが描かれていて、感情移入しすぎてちょっと苦しく・・・なりかけたりも。

まあでも、ラブストーリーと組み合わせた物語に仕立ててあるので、なんとかそう深刻になることなく読めました。

物語は一つ目も二つ目も、前半は夫婦のなれそめ、そして後半が片方の病死による別れまでを描いています。何しろ女性作家が主人公ということで、あちこちに「これは有川さんの実体験かしら?」なんて思わせるエピソードがあるのですが、これについては・・・いかにも「読者のご想像におまかせします」って感じですね。たぶん、ミックスなんでしょうけど。

その中で、主人公の女性作家のファンにして後に夫となる男性が、その女性作家の作風を形容して「ロマンチストなくせに理屈っぽい」と語るところがあります。これって、まさに有川さんの作風を語っていると思います。うひゃーと思うくらい甘いラブストーリーを展開しつつ、そこに、時に興醒めなぐらい、社会道徳や登場人物たちの生活信条が論述(って感じ)されていたりするのです。

甘いラブストーリーも理屈っぽい道徳バナシもかなり苦手な私が、なのになぜ有川作品を次々読んでいるのか、自分でも多少疑問に思うところではあります。さすがに、その甘さや理屈っぽさがあまりに強い作品は「この作品はちょっと・・・」って感じになりますが、やっぱり有川作品って、ストーリー展開の面白さや会話のテンポの軽快さなんかにぐいぐい引っ張りこまれるんですよね。それと、理屈っぽいと言いながら、そこここに「そうそう!同感!」と思うセリフなんかもあって。

たとえば本書でぐっときたシーンのひとつは、余命わずかとなった夫と、妻である作家のケンカの様子。愛する夫、しかも彼はガンで助かる望みも薄いという状況なのに、「ケータイを忘れて外出した」といって夫をなじってしまった妻。背景としては、夫のことが心配でたまらないので、外出するときは必ずケータイを持って出てね、と約束してあったのに夫がそれを忘れてしまった、ということで、妻は心配のあまりいわば逆上し、泣いて夫をなじってしまう。そして、すぐに、なじった自分が許せなくて泣いて謝る。その妻を慰めて夫が言う言葉。

「そんなの当たり前でしょ。俺、生きてるんだから。あのね、人間が無条件に優しくなれるのは、相手がホントに死人の箱に片足突っ込んでからなの。何でも我慢できるようになるのは、相手がホントにこれから死ぬってことが目の前にぶら下がってからなの。人間は生きてたら絶対些細なことで喧嘩すんの。些細なことで喧嘩してるうちは、死がまだ現実じゃないってことだよ」

そうなのです。病人が相手だろうと、相手がいずれ元気になるだろうと思っているうちは、些細なことでひっかかって尖った声を出してしまうことがある。すべてに腹が立たず、何があっても優しく返せるようになるのは、その相手が永遠に自分の前からいなくなってしまうのだということを、納得できたときなのでした。

この半年、他人の経験を聞いたり読んだりして知識としてだけは知っていたことのいくつかを、「確かにそうだ」と実感することが何度かありました。あまりにもあちこちで耳にするので「これは単なる定番表現ってヤツね」と思っていたフレーズを、「ああ、やっぱりそれって真実だったのね」という具合に再発見することもあったっけ。

といっても、本書はかなり軽めで、愛する伴侶との死別の悲しさ、切なさということが強調されすぎているような気もしました。

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