本と旅とそれから 頼むから、ほっといてくれ/桂望実

本と旅とそれから

頼むから、ほっといてくれ/桂望実

昨年読んだ「県庁の星」の作者・桂望実さんの1冊。
どこかでこの本の紹介文を読んだのですが、スポーツ(本書はトランポリン)に打ち込む若者たちの物語のようだったので、「風が強く吹いている(►感想文コチラ)」や「一瞬の風になれ(►コチラ)」などの感動を再び!・・・と、借りてきました。
頼むから、ほっといてくれ

頼むから、ほっといてくれ/桂望実(幻冬舎文庫)

結論から言うと、この物語は「風が強く」や「一瞬の」とは、類似のカテゴリーに入るものの、決定的に違うところがあり、そのせいで感動レベルではかなり劣ります。
その差とは、ズバリ「友情」。
「風が強く」は駅伝、「一瞬の」はリレー、そして「バッテリー(►感想文コチラ)」は野球。つまり、描かれているスポーツはどれもチームスポーツでした。

しかし、本書で取り上げられたスポーツはトランポリン。個人競技なのでした。まあ、途中、トランポリンでもシンクロという、二つのトランポリンを使い、二人の競技者が同時に演技するという種目も出てきますが、中心に描かれるのはひとりのスポーツです。なので、描かれる若者たちは、同じスポーツを共有しながら、その間に深い心のつながりが生まれることはないのでした。それどころか、互いの演技を見ながら願うのは、「失敗しろ」とか、「怪我をすればいいのに」ということ。

そんな彼らの心を「醜い」と嘲ることができるだろうか?いや、個人競技に真剣に取り組む者にとって、それは責められない本音というものじゃないのか?彼ら自身、そんなことを願ってしまう自分の心を、無条件に許しているわけではないのだし――という感じのメッセージなのかな、と私は読んだのですが。

でもね、たとえ非現実的な綺麗ごとと言われようとも、私は、自分に代わってリレーのメンバーに選ばれた後輩を、一生懸命指導して、その成功を心から喜ぶ若者の姿をこそ称えたい(「一瞬の風になれ」)。
・・・まあ、そう思えば、「頼むから」は、現実的なお話だということなのかも知れません。

描かれるのは、オリンピック代表に選ばれるかどうかを競う、大変高いレベルにある選手たちの姿。オリンピックという最高峰に挑戦する権利に、手を伸ばせば届くところにいる彼らの、極限の心情。そして、その権利を手にした彼らが、周囲から被るプレッシャーや雑音に対して感じる気持を集約したのが、タイトル「頼むから、ほっといてくれ」。

人間、団体競技向けと個人競技向けと、いるでしょうからね。団体競技の方が助け合えてよいだろうとか、成功を分かち合えて楽しいだろうとかいうことは、必ずしも言えないだろうと思うのですね。駅伝の途中で棄権したランナーの苦悩は、マラソンで棄権するのよりも大きそうな気がしますし。
ただ、物語として読む分には、やっぱり団体競技の方が楽しいなー。

あと、本書の物語に描かれるもうひとつ大きな要素が、現役選手が引退を決意するときの様子です。
すぱっと決心する人もいれば、未練を断ち切りがたい人もいる。そしていったん引退しても、もう一度復帰する人もいる。復帰してそれなりにいい成績を収める人もいる一方で、再チャレンジしてもやっぱりダメで、今度こそやめるということになる人も・・・。十人十色といいますが、本当に人それぞれです。再チャレンジしてやっぱりダメでも、傍からは「未練がましく復帰なんてしなければよかったのに」と見られようとも、本人の心には、以前とは違った納得があって、それはやっぱり価値ある、意義ある復帰であり失敗でもあったんだな、と。

ふと、浅田真央ちゃん、どんな気持ちなんだろうね、と思いました。オリンピックの結果があのような、失敗とも成功ともつかぬようなものとなり、いったん引退したような・・・しなかったような状態を経て今があるわけですが・・・。正直なところ、真央ちゃんがまた国際大会で金メダルを争えるようになるとは、私にはあまり思えないのですが、それと、彼女自身が現役を引退するかどうかはまた別な問題に思えます。

「頼むから」には、オリンピックで銅メダルを取った選手が、次のオリンピックのことを考えたときに心に浮かぶ気持を語るシーンがあります。目標の高さにではなく、そこへ行くまでの膨大な時間の方にしんどさを感じてしまったのだ、と彼は語ります。ある程度の高さを目指す人には、そのための努力を「しんどい」と思ってしまったときがやめるときなのでしょうか。スポーツ選手などは、年齢による体力の限界というものもまたあると思いますが、おそらくはそれ以上に、心の方が大きな要素なのでしょう。

本書は、登場する若者ひとりひとりを章を分けて描いていくスタイルをとっているのですが、そのせいもあって、ひとつの大きな物語というよりも、ドキュメンタリーみたいな雰囲気に仕上がっていると思います。そして、1冊読むと、やはりトランポリンという競技への興味が強まります。こんなところがすごいんだよ、こんなところが難しくてね、といったことも描かれていますから。一流選手だと、ビルの3階ぐらいの高さまで跳び上がるんですって。不思議な競技だという気もしてくるのでした。


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