本と旅とそれから 鹿の王/上橋菜穂子

本と旅とそれから

鹿の王/上橋菜穂子

守り人シリーズの上橋菜穂子さんの最新作…を、出てから1年半経ってようやく読みました。
守り人シリーズの自分の感想文をちらりと読み返しましたが、我ながらずい分褒めているものだなぁと、ちょっと驚いています。読んで数年が過ぎた今、頭に残っている印象は、カタカナと漢字の混在するファンタジーのぎこちない感覚…なのですが。
鹿の王

鹿の王/上橋菜穂子(角川書店)

本書も、守り人シリーズや「獣の奏者」と同様、完全な別世界で繰り広げられる物語です――異世界ファンタジーのあらすじを説明するのって、舞台となる世界そのものの説明から始めなくてはならないので長くなりますねー。

本書が敢行された頃だったか、NHKのニュース番組の中で上橋さんのインタビューをやっていて、そのときにちらっと本書のあらすじを紹介していましたが、何やら病気が出てくる話だということのほかはよくわかなかったのですよね。

しかし、それも無理はない、本書の筋立てはかなり複雑。
主人公は…被征服民の戦士・ヴァン。戦に負け、鉱山で過酷な奴隷の境遇にありましたが、ある夜、その鉱山を奇怪な犬の群れが襲います。犬たちはヴァンも含めて鉱山にいたあらゆる人々を次々と咬み、咬まれた者は病に罹り、彼と、奴隷女が残した幼子を除き、すべてが死んでしまうのでした。
というのが冒頭で、生き延びて脱走したヴァンと、彼が娘として育てることにしたその幼子・ユナのたどった道が物語となります。

もうひとり、ホッサルという名の若い医術師が登場し、副主人公のような存在となっています。
彼は、古くから続く民族の高貴な家の裔で、物語世界において最高レベルの知識と技量を持つ、いわば天才。臨床医であり病理医であり、免疫や遺伝や伝染病や、とにかく医学とその周辺の学問すべてに関して、物語世界で並ぶもののない高みに在る存在です。

で、タイトルの「鹿の王」というのは何かというと、物語に飛鹿(ピュイカと読ませる)という動物が出てきます。これは、一般的な鹿とは違い、馬の馬力と、野生の山羊の敏捷性を併せ持ったような生き物です。ヴァンの一族はこの飛鹿の飼育にすぐれ、中でもヴァンは、この飛鹿を操って戦う、屈強の戦士の頭だったのです。
「鹿の王」と言った場合、この「王」はいわゆる王様のことではなく、同胞たちを助けるために自らは犠牲となって敵を引き付けて戦う鹿のことで、それを人間たちが敬意を持って王と呼ぶ、ということなのだとか。それをヴァンと重ねているわけです。

ヴァンが罹患したにもかかわらず死ぬことを免れた病。なぜ彼とユナは死なずにすんだのか。その病の謎を解明しようとするホッサルたちと、病のもたらす脅威や災いを利用しようと画策する人々。そうした人間たちが織り成す物語…なのですが、個人単位だけでなく、そこに様々な民族や国家が絡むので、固有名詞がたくさん出てきて、ときどき「えーっと?この人は誰だったかな?」となります。
私の飲み込みがスローだっていうこともあるでしょうけど、異世界ファンタジーって、いっぺんですべてをしっかり把握するってかなり難しいのじゃありませんか?原作を読んでなくてこないだのNHKの「精霊の守り人」を見て、一回で状況がバッチリ分かった人っているのかしら…(いそうですが^^;)。

異世界の話で、現実世界には存在しない生き物などもたくさん出てくるのだから、病原菌の動きだって現実世界と異なったってよさそうなものですが、そこはこちらの世界の学問に照らしても正しくなくてはならないらしく、「あとがき」を読むと、上橋さんのご親戚のお医者様が監修されているのだとか。
病というものの原理についてホッサルが解説するくだりにはかなりのページが費やされており、彼の解説を聞く登場人物たちと同様、医学に素人な読み手にも、それは「へぇ~、なるほど」な学び体験です。

読み終えて、面白かったという感覚はありますが、正直なところ、あちこちに文句をつけたい気分も残ってまして、これは上橋さんのファンタジーを読んでいつも抱く感覚です。なぜなんでしょうねえ。我ながら、素直じゃないなぁ。

でも、ラストはとても好きでした。
上橋さんのお人柄が乗り移ったようなラストに思えてなりません。上橋さんに会ったこともないくせに言ってますが。基本的に優しい、温かい方なのでしょうねぇ。どんな人にも、幸せを願わずにはいられない方に違いない。
それに、幼い少女・ユナの描写などには、いかにも女性という感じがします。視覚的にはたぶん「モンスターズ・インク」のBooみたいなんだろうなと思いますが、さらに何かこう、幼子の匂いまで感じられるような愛着ある描写になっています。

それにしても、上橋菜穂子さんとその著作はなぜこれほどまでに高い評価を受けるのか。
確かに、じゃあそれ以上のファンタジー作品はどんなものがあるのか、と訊かれたら…トールキンやルイス以外に、すぐには思い浮かぶものはないんだけれど…だからといって…うぅむ。


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  1. 2016/04/25(月) 22:00:00|
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