本と旅とそれから ソロモンの偽証/宮部みゆき

本と旅とそれから

ソロモンの偽証/宮部みゆき

まっっったく、宮部みゆきって作家さんは、今さらながらスゴいわ~…。
大作、力作、でもって傑作。人の死が二つ、三つと重なった物語とはいえ、いわゆるミステリとしては地味な感じの題材を、ここまでの長編に作り上げてしまうって、ホント――私が言うのも僭越ですが――すごい才能だ~。
ソロモンの偽証

ソロモンの偽証1~6/宮部みゆき(新潮文庫)

クリスマスの朝、とある中学校の校庭で見つかった死体。それはその学校の生徒のものだった。彼は自殺したのか、それとも誰かに殺されのか。おそらくは自殺、と、事態が収まりそうに思われたとき、学校の誰もがそうと知る不良3人組を殺人者として告発する手紙が、マスコミに公開される――。

なぁんて、ちょっとミステリっぽく書いてみましたが。


事件の発端とその後の展開を描いた第Ⅰ部「事件」、真実がわからずに悩んだ生徒たちが、自分たちの手で真相を究明しようと学校内裁判を開くことを決め、それに向けて証言や証拠を集めに駆け回る様子を描いた第Ⅱ部「決意」、開廷した法廷でひとつひとつ明らかになる事実と、意外な真実を描いた第Ⅲ部「法廷」。各部が上下巻に分かれているので、文庫版では全六巻の長編です。

正直に言うと、実は私は4巻目の前半辺りでちょっとだけ読み進むスピードが落ちました。図書館の貸し出し期間を一度延長し、それでも読み終われずに一度返してまた借りて、と、この巻だけ妙に時間がかかってしまいました。まあ、予約を入れていた本がたまたままとめて回って来た、というのもあるのですが(そちらの方も、読み切れずに返すことになったりしたんですが(T_T))。でも、それを過ぎて5巻目から始まる裁判の話に入ってからは今度はぐいぐい読めてしまって、あっという間に最後まで行きました。

事件の舞台が中学校で、登場人物もメインはほとんど中学生なのですが――いや、この中学生たちの大人っぷりは、これはやっぱり小説でしょ。高校生ならまだしも、中学生ということでは…ありえないでしょー。特に、学校内裁判において重要な役割――判事、検察官、被告弁護人――を務める三人、それに「廷吏」と称して、法廷やその関係者の秩序と安全を守る役割を担うサムライタイプの少年などは、あれは並みの大人では敵いません。ニュースなどでは、たまにスーパー有能なローティーンの話も耳にするけれど、そういうのは例外的な存在であってくれなくては。大人の出る幕なくなってしまう。

しかも中学生たちは大人のように雑念にまみれていないので、その意図するところも行動もとにかく純粋。その姿を描いていくことで、彼らの周囲の大人たちの、傲慢さや見栄やひねくれた思惑などがいっそう浮き彫りにされているようでした。

それにしても長編。読んでいて、途中で少々スローダウンしたとはいえそこで読むのをやめてしまおうなどとはもちろん思わず、最後までまさに物語に引っ張られるように読み終えました。伏線の張り方とか、ホント、巧みです。1巻目の冒頭に、雪の降る夜の公衆電話のボックスの光景が描かれるのですが、ここで電話をかけていた少年の話が、クライマックスの裁判の中で大きく取り上げられます。この話の引っぱり方なんて…さすが、宮部みゆき~って感じ(≧∇≦)。

途中、淡々とした物語の進め方などが、宮部さんの直木賞受賞作である「理由」と似ているかな、と感じたりもしたのですが、でもって私は宮部作品の中ではあまり「理由」は好きとは言えない(それでも面白いのだけど)のですが、やっぱり違う、と、考えが変わりました。「理由」は、ちょっ淡泊すぎるように思うのですね。もう少し華やかさというかスリルというか、つまり脚色があってもよいのに、と思ったのです。

「ソロモン」は、その多くの部分が、中学生たちが制服を着て、夏休みに汗をふきながら、人と会って話をしてということを描写しているのですが、でもやっぱり、彼らは物語の中の役者であり、それぞれにユニークな花あるキャラたちとして描かれているなと思いました。

私が特に好きなのは、被告弁護人助手の野田クンかなっ。彼もかなり複雑な家庭環境を背負った複雑な性格の少年ですが、この学校裁判という出来事によって一番大きく変わり、成長した登場人物だと思えます。
最初は、薄暗~い性格の、私の苦手な「何しでかすかわからず、見ててひやひやする」タイプのキャラとして登場しますが、前半で大きな試練を乗り越えてからは、人間も安定し、神原弁護人の強力な右腕として活躍します。しかも、それまでの斜に構えた態度が消えて、ひたむきで懸命な人間になるのです。

頑張れ野田クン、宮部さん、裁判で野田クンにも見せ場を作ってあげて下さいよぅ、などと思いながら読むわけなのでした^^。

あと、判事役にして学年一の秀才・井上クンもちょっとよい。
他の主要キャラと比べれば出番は多くありませんが、秀才ぶりと、隠れコメディアンぶりが何ともいえないミックスの御仁。本当に、彼は後にどんな人間になったのでしょうねえ。検事役の少女は弁護士に、弁護人役の少年は学者に、野田クンは母校の教師になったことが後でわかりますが、判事・井上クンについては記述なし。うーむ、何だろう、医者、とか?

長編でもあり、細かくあれこれ感想を書き始めたらきりがありません。
ただもうひとつだけ、文庫版は最終巻に書き下ろしの中編が収録されているのですが、これがまた。
本編では中学生検事だった少女が、長じて弁護士になって手掛けるある学校がらみの事件を描いているのですが、そこに登場してくる私立探偵の名が杉村三郎。ははは、「名もなき毒」シリーズの彼、離婚してから私立探偵になったのか!あっちのシリーズも読んでからの方が、「思いもかけず懐かしい人に再会できた」喜びが味わえてよろしゅうございマス。

バブル終盤という時代にあえて舞台を設定しているのは、あの頃の雰囲気(って、どんなものと思うかは人によるでしょうが)を使いたかったからというよりは、私には、携帯電話が普及する前の物語にしたかったからのように思えます。公衆電話が事件の重要な要素になっているし、少年たちがケータイを持っていたら――たぶん、事情はかなり違ったものになっていただろうと思います。

あー、全然書き足りない感じ。でもまあ、いつまで書いても同じことになりそうなので。以上。


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tag: 宮部みゆき 
  1. 2016/06/10(金) 22:00:01|
  2. 2016
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恐ろしいほどご無沙汰してしまったの!

録画したソロモンの偽証をついこの間見たところで、久しぶりにココを訪問したところ、原作本と映画の記事があるじゃありませんか。

そうか、野田君。ばっさり割愛されてたのか。映画の彼もオーディション?何となくどこかで見たことがあるような、ないような…。

原作が6冊の長篇とは。よく映画化しようと思ったね。その長さを脚本にするなんて、ものすごい作業でしょうに。

映像作品➡原作を読んで、原作に忠実に映像化したんだなあと感心したのは、最近では確かにぼんくらやねえ。藤沢周平作の立花登青春手控も原作を大事に映像化してると思うし、原作への愛を感じたなあ。6冊の長篇を3時間の映画に編集するのにも原作への愛なしにはできんだろうが、それって難しそう!
  1. 2016/06/28(火) 12:38:43 |
  2. URL |
  3. しの #2nAugjbc
  4. [ 編集 ]

しのちゃん、

お返事遅れてしまってごめんね!

先日、義妹Kちゃん&姪っ子MMと話をしたとき、二人が「ソロモンの偽証」の映画を見て、すっごく面白かったと話していたよ。前編を見て、あまりに面白くて続きが気になったので、そのまま後編も見たと言ってました。二人は原作は読んでいないそうなので、その方がむしろ映画は楽しめるのかも知れないなぁ。
映画だけ見ると、私のひいきの野田くんは、あまり印象に残らないみたいだね。それはそうだろうなー、出番も少ないし。
たぶん、中学生役はすべてオーディションだと思います。

立花登青春手控は見てないー。
面白かったようだね!私も見たかった。
それにしても、録画するだけで見ていないTVドラマがDVDのハードディスクを満たしてきていて少しアセっております。
「マスケティアーズ」とか、どーすんだ。
  1. 2016/07/06(水) 22:30:03 |
  2. URL |
  3. lazyMiki #Dud4.962
  4. [ 編集 ]

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