本と旅とそれから 猫を抱いて象と泳ぐ/小川洋子

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猫を抱いて象と泳ぐ/小川洋子

小川洋子さんは3冊目。段々、小川さんの作品の雰囲気というか、香りのようなものがわかってきたような気がします。
ただ、それを「こんな感じ」と描写することはなかなか難しくて――不思議な雰囲気、といいますか…。
猫を抱いて象と泳ぐ

猫を抱いて象と泳ぐ/小川洋子(文春文庫)

チェスの物語なのです。というより、ひとりのチェス指しの物語、かな。
物語の中の彼の呼び名はリトル・アリョーヒン。
この物語にはいくつか不思議な雰囲気を作り出している要素があるのですが、そのひとつが、登場人物が誰ひとり固有名詞で呼ばれないこと。


リトル・アリョーヒンも、リトル・アリョーヒンと呼ばれるようになるのはそれなりに年齢がいってからのことなので、それまではただ「少年」と呼ばれます。あるいは「坊や」とか「おまえ」とか。彼のほかに物語に登場する人々もすべて、役職や風貌、あるいは「少年」の付けた呼び名などで呼ばれます。
施設名は固有名詞で出てくるのですが。

といってもそもそも、この物語の舞台がどこなのかも実はわかりません。
町の名前はもちろん、国の名前も出ず、有力な手がかりであるはずの人の名前が全然出てこないので、舞台が日本なのか外国なのかさえわからない。リトル・アリョーヒンというのは、ロシア人の伝説のチェス指しにちなんでつけられた名前ですが、だからといってロシアが舞台というわけではなさそうですし、ところどころ、いかにも日本という雰囲気の場所の描写などもあるのですが、そうかと思うと、「こんな異国風の場所は日本じゃないだろう」という場面もあるし。

もうひとつの不思議な要素が、主人公の「少年」、のちリトル・アリョーヒン。
彼は、生まれたときに上下の唇がくっついて生まれ、それを手術で切り離し、そこに脚のすねの皮膚を移植したため、唇に傷跡があり、また唇にすね毛が生えているというのです。また、彼は11歳になったときに体の成長が止まってしまいます。

このリトル・アリョーヒンには、こうした身体的な特異性のほかに、チェスに関する不思議な能力が備わっています。単にゲームとしてチェスが強い、というだけではなく、チェス盤を大きな海としてその中を泳いだり、ひとつの試合をひとつの物語として、美しく綴りあげていく才能があるというか・・・まさに、チェスについては普通ではない世界を持っているのです。

・・・そう考えてくると、やっぱりこの物語の不思議さは、リトル・アリョーヒンの不思議さかしら。
短くまとめられない不思議さを、この少年は長年かけて自分の内に培っていくのです。そんな彼の内宇宙に存在するのが猫のポーンであり、象のインディラで、小説のタイトル「猫を抱いて象を泳ぐ」を完璧に説明できれば、物語の説明もできるというものなのですが――長くなりそうです。

不思議な少年が、不思議な人々と出会い、不思議な経験を積み重ねて大人になり、さらに不思議な日々をおくっていたところに唐突に終りが来る物語。
何となく、昔読んだアンデルセン童話の中の、悲しい結末の物語に似た雰囲気を感じました。「鉛の兵隊」とかかな…。ちょっと、「フランダースの犬」も思い出してしまいました。あの悲しいラスト。

リトル・アリョーヒンは、基本的には幸せだったのだと思います。後で何度も悔やむようなこともあれこれ経験しはしますが、それでも彼はいわば「足るを知る」人間だったのだと思うのです。傍から見ると、可哀そうにも寂しそうにも見えそうですが、何しろ彼には豊かな内なる世界があります。そこに住む人々(や、猫や象)は、たとえ形はそこに見えなくても、リトル・アリョーヒンには常に身近に感じられる存在なのです。

彼の内世界が豊かなのは、彼を取り巻く世界が狭いこととバランスを取っているみたいな感じもします。実際の経験はすごく限られているのに、だからといって彼という存在をトータルで見ると、無限の広がりすら感じられるような。
・・・ちょっと「エレファントマン」も思い出します。外見の特異さからの連想でしょうけど。外見からは計り知れないような内面を持っている人って、きっといるのでしょう。

ぐいぐい読ませる、というようなパワフルな物語ではないのですが、なんというか・・・寂しいような寒々しいような、でもやはり美しいと思える、外国の風景の写真集でも見るような感じでゆっくりと楽しめました。


webcitron01.gif


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  1. 2016/11/09(水) 22:00:02|
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コメント

私もちょうど小川洋子さんの本を読んでるよ。まだ途中。
ちょっと独特な世界観だね。
小川さんのラジオ番組を車の中で聴くことが時々あって、いつかこの人の本を読んでみたいなあと思っていたのでした。私が読んでいるのは「思い出アーケード」っていう本。劇的な展開があるわけではないので、ゆっくり少しずつ読んでるところです。
「ヨウコ」さんつながりの話...NHKのEテレでヨーコさんの言葉っていう短い番組をやってて、それも小川洋子さんかと思ってた。小川洋子さんではなくて絵本作家の佐野洋子さんだったんだけど、これがまたいいのよ。しみじみ納得したりする。
  1. 2016/11/25(金) 00:21:46 |
  2. URL |
  3. しの #2nAugjbc
  4. [ 編集 ]

しのちゃん、

それは偶然だね!
ほんと、「独特な世界観」って、そういう感じだねえ。
小川さんのラジオ番組とか、Eテレの佐野洋子さん(お名前は馴染みがあるんだけど、作品とかぱっと浮かばない…)の番組とか、あるんだね。そういう、短くても味のある番組って、日常のスパイスって感じがしてよさそう!
全然話は違うけど、先日「真田丸」の大阪冬の陣の回を見ていたら、うとうとしちゃって、はっと目が覚めたら戦いは終わっておりました。ちっ。
  1. 2016/11/26(土) 10:15:22 |
  2. URL |
  3. lazyMiki #Dud4.962
  4. [ 編集 ]

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