本と旅とそれから 悼む人/天童荒太

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悼む人/天童荒太

第140回直木賞受賞作――ということで調べてみると、山本兼一さんの「利休にたずねよ」(感想文は►コチラ)と同じときの受賞なのですね。2008年。ちょっと前のことになりますか。

「悼む人」と呼ばれる不思議な人物と、彼に関わる人々の物語。
「悼む人」の名は静人。彼は幼い頃から身の回りに起きた死を巡るいくつかの出来事の影響で、見ず知らずの人々の死を悼むため、日本全国を回る旅に出ます。
静人自身、彼が道中出遭った人々、そして彼の帰りを待つ家族の物語から成るお話です。
「悼む人」

悼む人(上)(下) 天童荒太(文春文庫)

まずとにかく、中心人物である静人が独特。
彼が死者を悼むため旅をする、そのポリシーというか、どのような考えを持って、どのような悼み方をするのかといった、「悼む」行為自体が、もう、「なんだこりゃ」。
旅をするといっても、お金のかかることは最小限にとどめ、公園などに野宿を続けるという超貧乏旅行。「悼む」という行為が旅のすべてなので、ほかには何の楽しみもない。新聞や雑誌で人の死について情報を集め、その場を訪れては付近の人々に亡くなった方が「誰を愛し、誰に愛され、どんな感謝をされたか」を聞いて回る――。

静人のことを気味悪がったり馬鹿にしたり、非難したりする人も多いのですが、う~ん、私も、別に非難はしませんが、共感はできないし、気味悪いと思ってしまいます。
彼について様々な物語を読んで、彼の純粋さを知ってなお、彼の行為にポジティブな気持ちがわかない…。

静人は、人の死の多くがすぐに忘れ去られてしまうことが嫌で、死者をできる限り記憶に留めておこうとして悼みの旅を続けているのですが――人の死を忘れることの、何が悪いのかと私は思ってしまう。

私はそもそも、忘れるということにかなり肯定的なのです。
よくニュースで、大災害などの記憶を風化させないためにと様々な努力をする人々の活動が報じられますが、私は、実はそうしたことに懐疑的。
もちろん、災害などから得られた教訓を伝えることは重要だし、被害者・犠牲者と親しかった人々が、それについてずっと記憶していくのは自然だと思います。

でも、不特定多数が、そうしたことをずっと覚えていく必要はあるのでしょうか。
それを続けていったら、やがて人々は毎日、「今日は○○震災からXX年目です」というニュースばかり聞くことになってしまう。

だから、「すべては無理だけれど、できる限り多くの人の死を心に刻みたい」という静人の気持ちが、頭では「そういう人もいるのかもね」と思っても、その行為に意義があるとは思えないのです。

よく「心の中に生きている」とか「人は忘れ去られたときに本当に死ぬ」などと聞きます。これは別に違和感を覚えません。特に前者。心の中に亡くなった人のことを思うとき、亡くなった人が何だかまだ身近にいるような感覚を覚えることが、自分でもありますから。
だから、本当に身近な、誰から何を聞かなくてもその姿がありありと思い浮かべられるような人のことだけ、人間はずっと覚えていればいいのじゃないでしょうか。

だから、静人には共感できないのですが、彼の母の話は胸に迫りました。
静人が悼むために旅に出て、もういつ帰って来るのかわからなくなってから、彼女・巡子はガンを病み、余命数カ月を宣告されます。

その彼女が、最期の日までどう生きたかが彼女の視点から語られるのですが、これは素晴らしい。何と見事に、最後の最後まで人生を生ききったことか。
最後の最後まで、息子・静人が帰って来てくれることを願いながら。
彼女は、息子の生き方を静かに肯定し、何の不満も抱くことはないのですが、その彼女の姿を見て(読んで)いると、静人のことが腹立たしくてなりません。
不特定多数のことじゃなくて、まずは自分の身近な人を大切にしたらどーなの!

その巡子の傍に寄り添う、彼女の夫、娘、甥っ子。
巡子への優しさに溢れた彼らの姿が、本当に美しく、そして可哀そう。

死とは。生とは。記憶とは。
そんなことを考えさせられます。

そして、物語の中に出てきた小さな事柄が、私には大変印象に残りました。
それは、人には、最後まで聴力が残る、ということ。
心臓が止まったあとでも、人にはまだ聴く力が残っているのだとか。
巡子はそれを知って、自分は最期にどんなメッセージを聞くのだろうと思いを巡らす――。

巡子の最期が物語の最後で、何とも言えない光の満ちる、美しい終わりでした。


webcitron01.gif


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