本と旅とそれから 雪と珊瑚と/梨木香歩

本と旅とそれから

雪と珊瑚と/梨木香歩

未読の作品を見れば、まず迷うことなく手が伸びる、大好きな作家さんのひとり、梨木香歩さん。いろいろな物語を書いておられるので、中にはあまり共感できないものもありますが、本書は本当に素敵な物語で、「家守奇譚」に次ぐぐらい、好きでした。

雪と珊瑚と
雪と珊瑚と/梨木香歩(角川文庫)

主人公は、まだ1歳にもならない幼い娘・雪を抱える、若いシングルマザーの珊瑚。
働かなくては生きていけないのに、保育園はどこも満員、という切羽詰まった状況で出会った「赤ちゃん、お預かりします」の貼り紙。
そこから彼女は、年配の女性・くららと出会い、それからさらに多くの人々と出会い、やがて森の中にカフェを開く。

この物語にはたくさんの魅力的な要素が詰め込まれていますが、その中でも素晴らしかったのが、赤ちゃん・雪の可愛らしさ。
特に可愛らしさを引き立てるような描写があるわけではなく、ごくごく自然に思われるのですが、それがすぐに脳内に画像を描き出して、その描き出される赤ちゃんの姿が、もんのすごく可愛い。
母親・珊瑚の元へと全速力で這い這いしてくる雪の様子が、いやー、脳内に描き出されるその姿に頬ずりしたくなります。

そういえば、この物語も、これから物語はさらに大きく展開していくぞ、というようなタイミングで終わってしまいます。
でも、ちっとも中途半端な気がしない。ちゃんと、ここで終わることを見据えて物語が続いてきていたのだな、と思えます。
素直に、雪と珊瑚がこの先幸せに暮らしてくれるようにと思って本を閉じることができます。

もうひとつ大きな物語の要素が、食べ物。というか、料理。
うまい具合に、くららさんの甥っ子が有機農業をやっていて、いろいろな季節の野菜が登場するし、くららさんがまた料理に詳しい。最初は何の知識もなかった珊瑚が、彼女と付き合ううちに、カフェの料理を作れるようになっちゃいます。
この料理がまた、どれも美味しそうで。実際、人気のカフェなどに行くと、ワンプレート・ランチがすごく美味しかったりしますよねえ(京都の茂庵など思い出します)。
美味しい料理を食べると人は幸せになる。そんなメッセージも伝わってきます。

物語にはいろいろな人が登場しますが、中に、登場場面はごく少ないのにとても強い印象を残す人がます。珊瑚が、カフェを開く前にバイトしていたパン屋さんでバイト仲間だった、同世代の女性・美知恵。バイトしていた間も決して仲が良くはなかった彼女が、珊瑚がカフェを開いたことを知って手紙をよこすのですが、この手紙が。
自分がいかに珊瑚のことが嫌いか、珊瑚のどこが気にくわないのか。それを書き連ねた手紙なのです。

まったくねー。なんでわざわざそんなこと書いた手紙よこすかな。気にくわない人はあちこちいるでしょうけれど、その嫌いだという気持ちを手紙という形にしたら、その気持ちが一層はっきりと黒々としたものになってしまうと思うのですが。
大体、以前の知り合いから唐突にそんな手紙を受け取ることがいかにショックか――いや、そもそもそれが目的なのかしら…。

まだ若い珊瑚は、様々な感情に翻弄され、悩み迷うことも多いけれど、物語の最後には、何となく、雪を抱いて力強く大地を踏みしめて立つ珊瑚の姿が見える気になりました。
続編を読みたいけれど、なさそうですね~。


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  1. 2017/02/07(火) 22:00:02|
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