本と旅とそれから 海の翼 エルトゥールル号の奇跡/秋月達郎

本と旅とそれから

海の翼 エルトゥールル号の奇跡/秋月達郎

「海難1890」という映画があって数年前に観たのですが(どうも、感想文は書いていないようです)、本書を手に取ったときは「これはあの映画の原作なのかな?」と思いました。まったく同じ話なので。
1985年、イラン・イラク戦争の際に、イラン在留の日本人を国外脱出させるための飛行機をトルコが派遣してくれたという事件と、明治時代に起きたトルコ軍艦の海難事故で日本の小さな海辺の村の人々が救助に力を尽くしたという事件、この二つを取り上げています。
海の翼

海の翼 エルトゥールル号の奇跡/秋月達郎(PHP文芸文庫)

1985年のイランの状況は大変危険で、サダム・フセインが「イランの上空を飛ぶ飛行機は、民間機であろうと撃墜する」という声明を出したため、その措置が取られる刻限までにと、各国が特別便を飛ばして自国民の脱出を図る中、日本だけは打つ手がなく、在留邦人は窮地に追い込まれていました。
本書中では大方の固有名詞は少しだけ変えたものが使われていますが、すぐに日本航空とわかる日本の航空会社は、労組が「安全が保障されなければ飛ばせない」と突っ張ったため、飛行機を飛ばせないのです。

そんなときに、明治時代の海難事故の時の恩義を忘れず、「日本人に恩返しをする」と、隣国トルコが飛行機を出してくれるのですが――。

この話はフィクションではありません。多少の脚色ぐらいはあるかも知れませんが――そういえば1985年当時、ニュース番組でもその話やっていたのをぼんやり覚えています。

それにしても。隣国とはいえ、昔の恩義に感じて危険をおかしてトルコが飛行機を出してくれているというのにですよ。あまりにも頼り甲斐がないじゃありませんか、JAL。パイロットは、自分が行くと手を挙げている人がいたのに、労組が「機体の整備をしない」といって拒否するって、どうなの!

今回、この一件について、本書を読んで知ったのは、この時「自分が行く」と手を挙げた自衛隊出身のJALのパイロットというのが、この同じ年の夏に、日本航空123便墜落事故で御巣鷹で亡くなった高濱雅己さんという機長だったということ。不思議なというか、悲しいというか、危険なイランに行っていてもいなくても、この方はこの年に命を落とす運命だったのですね…。

それと、もうひとつ、本書ではちらりと匂わす程度に触れられていることなのですが、この、安全が保障されなければ飛行機を行かせるわけにはいかない、と強情を張った労組の委員長という人物。作中では倉本次郎という名前なのですが、これは実在の小倉寛太郎という人物のことですね。
小倉寛太郎とは、山崎豊子さんの「沈まぬ太陽」(映画の感想文ですが、►コチラ)の主人公恩地元(はじめ)のモデルになったとされる方です。

おそらくは、JALの従業員を危険にさらすことはできないと、懸命に守ったということなのだろうとは思うけれど――恩地さん・・・。
そりゃ、無理に行けと命じることは社長にだってできないとは思いますが、自分で行くと言っている機長がいるというのに、200人の日本人の窮地を見過ごすっていうのは…イランにJALの事務所でもあれば状況は違ったのでしょうけれど。

そんな中で飛行機を出してくれるなんてトルコ、なんて友誼に篤い国なんでしょう。
しかも、イランには、まだトルコ人がたくさん脱出できずに残されていたのに、日本人を優先して飛行機に乗せてくれたというのですから。飛行機に乗れなかったトルコの人々は、車で国境を越えたのです(かなり険しい道のようです)。

そして、そのことを非難する声はまったくトルコ国民の中に起こらなかったのだとか。

この辺は、映画「海難1890」にも本書にも、同じことが記されています。
でも、別に本書は映画の原作ではありませんでした。登場人物は全然違ってました。

そして映画では、この100年を隔てた二つの事件のことだけが描かれているのですが、小説の方では、明治時代の事件の方を、もう少し後年まで描いていました。映画では、難破して救助されたトルコ人たちが、やがて故国へ向けて帰って行くところで終わりますが、小説では、彼らを乗せた日本の軍艦がトルコに行って、その時トルコを訪れた日本人のその後まで描かれています。

驚いたのですが、この時、トルコに派遣された二隻の軍艦の一隻に、秋山真之が乗り組んでいたというのです。秋山真之といえば、後に日露戦争の日本海海戦でバルチック艦隊を撃破した時の日本海軍の参謀で、司馬遼の「坂の上の雲」の主人公の一人。やがて日露戦の話へと話はうつり、日本と同様にロシアの脅威に晒されていたトルコが、日本の勝利を我がことのように喜び、日本が勝利したおかげでトルコがロシアに攻められることを免れた、とここでも日本に感謝の念を抱いた、と続くのです。

そういえば、トルコには今でも「東郷ビール」というのがある、と、TVで見ました。東郷元帥の東郷。以前は単に、小さな日本が大きなロシアに勝ったというのが小気味よく思われたのかな、ぐらいに思ってましたが、もっと深い経緯があったみたいですね。

明治時代の話になると、文体が司馬遼っぽくなるのが面白い。歴史小説作家で司馬遼の影響を受けない人はいないだろうと思いますが、ホントに語り口が似てて、笑いそうになっちゃいました。

でも、話は、「いかにも」なのに、やっぱりうるっとさせられます。
私はまあ、単純なのかも知れないけれど。作者の意図通りに、「うぅ、トルコ、なんていい友好国なんだ」と感動してしまいますから^^;。
もう疎遠になってしまったけれど、昔、トルコ人の友達がいたりしたので。で、その人が大変素晴らしい人物だったものですから。私のトルコという国に対する印象は非常に良いのです。

いろいろ苦労の多い国なんですよね、トルコ。隣りはシリアだし。同じイスラムの国でも、「中東の国ってわからん」と、そのトルコの友人(国のお役人でした)はため息ついていましたっけ。いろいろ努力してるのに、なかなかEUに入れてもらえないし。EUに入れてもらうために、死刑制度を廃止したり、頑張っているのに、結局EUってキリスト教国の集まりなんですかね。

いつかトルコに行きたいと思っていたけれど、シリアがあんなでは、それもかないそうにありません。そんなこんな、本を読み終えてから、トルコについていろいろ考えました。


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