本と旅とそれから 村上海賊の娘/和田竜

本と旅とそれから

村上海賊の娘/和田竜

子供の頃親しかった友人は「村上」という苗字で、「自分は村上海賊の末裔だ」と言っていた気がします。その当時は、「海賊なんちゅうものの子孫だなんて、威張るようなことだろうか」と思ったような記憶がありますが。

今は、そりゃ威張るでしょうね、と思います。
村上海賊の娘
村上海賊の娘/和田竜(新潮文庫)一~四

こちらも、ちょっと前に話題になった本、本屋大賞受賞作です。このぐらいまで待つと(最初に刊行されてから4年、ですか)、文庫で読めます。

タイトルになっている「村上海賊の娘」、すなわち主人公は「景(きょう)」という娘で、「登場人物紹介欄」によれば、「悍婦にして醜女で、嫁のもらい手のない二十歳」。
ですが、特にこの「醜女」の定義については、当時の一般的な美女と醜女の定義によるところが大きいということらしく、景の顔だちの描写を見る限り、「目がものすごく大きく、彫が深い」ということで、現代の感覚でいえばむしろかなりの美女。

杏さんとか、柴崎コウさんみたいな顔立ちだったんじゃないの?

ですが、少なくとも当時は、あまり主張のない、丸くてのっぺりして色白、みたいな顔立ちの人が美女とされていたようです。

悍婦、はまあ、じゃじゃ馬娘、ぐらいでしょうか。
これはその通りで、というか、そのぐらいの言葉では表しきれないほどのとてつもなく荒々しい気性の持ち主。戦が大好きで、楽しそうに敵の首をポンポン刎ねてしまうのですから。

この景を中心に、顕如の大阪本願寺と織田信長の争いを描いた物語。

大阪本願寺が毛利家に援助を求め、毛利家は傘下の村上海賊に出兵を命じます。一方織田家は、泉州(大阪の一部といってよいでしょうか)侍を動員し、その一部に眞鍋海賊がいる。この眞鍋海賊の頭領が眞鍋七五三兵衛(しめのひょうえ)という人物ですが、彼がある意味一方の主人公。
身体的にも精神的にも、傑物というよりむしろ怪物じゃないかと思うような強さを持っています。

文庫版は全四巻ですが、三巻目の終盤から四巻目は、両者による海戦の模様が延々描かれます。
私は、戦争の現場の様子とか、剣豪同士のチャンバラの模様の描写というのが苦手で――それは血生臭いからというよりはむしろ退屈に感じるからで、長々と描写されると読み飛ばしてしまうことがあるのですが、本書のこの海戦描写については、楽しく読めました。
そしてどうやらこの部分が、本書の中でも特に評価が高いようなのですね。

「見てきたように」と時々いいますが、誰も見たことのない、画像が残っているわけでもない海の上での戦を、ああも長時間に渡って、まさに「見てきたように」描き出してみせるとは、本当に、素晴らしい筆力だと思います。すごい迫力。夜の戦いなのですが、巨大な船が、暗闇から突如目の前にぐわぁ~っと姿を現す様子とか、海賊たちが「乗っ取り」を仕掛けるべく、大挙してひとつの船に群がる様子など、頭の中の巨大スクリーンに映像を見せられる思いです。

ただ、人が殺し、殺される場面の描写は、あまりにもビビッドで時々ぞっとさせられます。

物語の前半においては反発を感じるような景の人物描写ですが、彼女も様々な経験を経て変わる。その変わった後の景を、海戦では応援しつつ読みます。

物語は、一方で兄弟愛、家族愛を描いてもいて、特に、景とその兄・元吉、弟・景親(かげちか)の三人の兄弟愛には温かい思いがわきます。元吉は父・武吉の跡継ぎ、村上海賊の頭領として一族郎党を率いていますが、事情があっていったんは戦をせずに戦場を離れます。ところが、妹・景が単身織田方に殴り込み(というのでしょうか…)をかけたと知ると、迷うことなく、妹を救うべく、軍を翻して織田軍に向かっていきます。

また、弟・景親は弱虫の泣き虫で、大きな体をしていながら姉の景に子供の頃からいじめられ続けてきました。そんな弟なのに、なぜだか姉を見捨てることができず、やがて彼は戦の中でひとりの勇者に変貌していきます。

景はといえば、兄のことは常々、口うるさくて煙たいと敬遠し、弟のことはいくじなしとバカにしているのですが、それでも、自分が危険な戦に飛び込む時は弟を巻き込まず、自分が窮地にある時に兄が助けに来てくれたと知ると、身体が震えるほどの安堵を感じる。
まるで、弟のピンチに宇宙の彼方から兄が駆けつける、ウルトラ兄弟のようだ。

彼ら兄弟たちに限らず、登場人物のそれぞれにそれぞれの考えや生き方がある。そのあれこれを、善悪に分類することなく、カラっと描いています。
それにしても景のパワーとバイタリティーは非現実的なレベルで、その点ではリアリティには欠けると言ってよいのかも。

マンガのような世界、でしょうか。それが豪快で、とても楽しめました。


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