本と旅とそれから スロウハイツの神様/辻村深月

本と旅とそれから

スロウハイツの神様/辻村深月

最近、体調がかなり上向いてきて嬉しいものの、時間の使い方がヘタ、という属性については何も変化がなく、ブログ書きがずい分と久しぶりになってしまいました。本当をいうと、本書を読んだのは昨年末なのですが、感想文UPはこのタイミング。文章の方は一応、ずっと前にデスクトップに書いておいたものです。

辻村深月さんの本は2作目。1作目「凍りのクジラ」(感想文は►コチラ)も面白かったけど、こちらの本も楽しめました。「凍りの」の主人公が、ちょっと登場したのにはびっくり。出番は多くありませんが、名声を確立した写真家として、物語の展開に結構重要な影響を与える存在として出てきます。
凍りのクジラ

スロウハイツの神様/辻村深月
(講談社文庫)


物語の舞台は、西武池袋線沿線、駅でいえば椎名町。
かつて私が着物の着付けに力を入れていた頃、指導を頂いていた先生の美容院が椎名町にあり、何度も通ったところです。といっても私は駅と美容院の間を行き来していただけなので、椎名町の中でもごく限られたエリアしか通ったことはないのですが――。

スロウハイツというのは、主人公・環(たまき)が相続したアパート。もともとは宿屋だったのを環が改装し、自分も住み、自分が気に入った友人だけに貸すことにしたアパートです。住宅街の一角にある建物ということでしたが、ん~…まあ、私の歩いたルートも住宅街の間を通っていましたが、あの辺りのどこかにスロウハイツがあったかなー、と想像すると、何となく物語が近く感じられるような。

環の職業は脚本家。最近どんどん人気が出て来て、TVや映画の仕事も増えている、いわゆる「成功した」人。その彼女以上に成功しているのが、スロウハイツの一室に住むラノベ作家・チヨダ・コーキ。大人気シリーズがあり、それがアニメ化もされた超売れっ子です。
スロウハイツのその他の住人たちは、それぞれクリエイティブな仕事を目指す、若いタマゴたちです。

あらすじを書こうとして、あらためて、この物語がかなり複雑なものだと認識しました。
このスロウハイツ一番の大物・チヨダ・コーキ=コウちゃんというのが、小説を書くことに没頭する一方で、世間一般の「成功者」のイメージにまったく当てはまらない人物なのです。何しろ、バス、トイレ、キッチンも共同、というスロウハイツのような下宿(?)に住んだりするくらいなので。

かつて、彼の小説を読んで影響を受けたとされる人物が、多くの人を殺す大事件を起こしたことがあり、それによってチヨダ・コーキが世間から排斥された時期があります。そんな彼を救ったのが、彼を擁護する手紙を毎日毎日新聞に送った、誰とも知れぬファンの少女。コーキの天使ちゃん、と出版社が名付けたその少女が誰だったのか、結局はわからず仕舞いでしたが、コーキはその少女を見つけたいという思いを抱き続ける。

そのコーキや、コーキの大ファンを自認する環、その環の「選考」をパスしてスロウハイツに入居してきた若者たちそれぞれの物語、彼ら同士の物語、それらがかなり複雑に、しかも現在と過去に広がって織り成されていく小説でした。

ネタバレしてしまってはもったいないのでやめておきますが、終盤は感動のストーリー展開でした。
人間、何に励まされるかは様々ですね。ラノベでここまで人は支えられ得るか、とちょっと首をひねりたくなったりしましたが、まあ、あるかも知れません。音楽の場合もある、映画だって、アイドルの存在だって――数えきれないほどの様々な何かが、人間を支えてくれる。その何かに巡り合うことが出来た人は幸せです。

といっても、昨今のニュースなどを見る限り、それが怪しい宗教だったり、ヘンな占い師だったりすることもあるようなので、そうした後ろ向きなものでなく、自分を前向きに動かしてくれる何か、でなくてはならないのですが。

環とコーキという二人をメインに、他の若者たちの物語もとてもしっかり作り上げられていて、読み応えのある見事な小説だったと思います。ラノベ作家を描いた、決してライトではないノベル。ちょっと奇妙な気もします。でも、この「ライトじゃない」感覚も心地よい。主人公たちの身の上がかなりつらい物語なので、多少ずしんとくる面もなくはないのですが、そこから彼らが立ち上がり、前進していく姿が何ともいえず清々しいものでした。


webcitron01.gif


My Favorite Books(お気に入りの本のブクログ)
BOOKS INDEX(作家別感想文一覧)

関連記事
tag: 辻村深月 
  1. 2018/03/01(木) 22:00:00|
  2. 2018
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0

トラックバック

トラックバック URL
http://lazymiki.blog110.fc2.com/tb.php/1998-54a675ad
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する