本と旅とそれから さくら/西加奈子

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さくら/西加奈子

先日、友人が西加奈子さんと原田マハさんを読んでいると聞いたので、「私も!」と、早速借りてきた1冊。ちなみに、たまたま文庫棚に原田マハさんがなかったので、今回はまず西加奈子さん。
何冊か並んでいたのですが、どれにするかノーアイディアだったので、裏表紙の「春の訪れとともに読みたくなるロングセラー作品」という言葉にひかれて選びました。
さくら

さくら/西加奈子(小学館文庫)

面白い、といいますか、「じーんとする」、「ズン、と響く」ような物語でした。

舞台は大阪。
仲の良い、美男美女カップルの夫婦、ハンサムで人柄も爽やか、どこに行っても多くの人を惹きつける長男・一(はじめ)、尋常ならざる美貌を持ちながら、とことんゴーイングマイウェイでかなり暴力的でワイルドな長女・美貴、その兄と妹の間で、「普通な」次男・薫。そして、見た目はパッとしないけれど、家族全員に愛される犬・さくら。
このメンバーから成る長谷川家の物語。主人公にして語り手は次男・薫です。

形式としては、現在の状況を少し見せた後で、過去に戻ってそれまでの物語を語り起こし、さらに冒頭以降の物語を続ける、というもの。

冒頭の「現在」と「過去」の間には、長男・一の死という大きな悲劇があります。それがどれほど家族の心を打ち砕くものだったかを読者に知らしめるために、それまでの家族の、幸せに輝くようだった歳月が丁寧に描かれます。いかに両親が愛し合う夫婦だったか。その両親を見ていて子供たちが幸せだったか。三人の子供たちがどんな個性の持ち主だったか。それぞれに悩みを抱えながらも、それと折り合いを付けながら成長してきたか。そして、兄弟の間に、家族の間に、強い結びつきがあったか。

どんな幸せな家族にも起こりうる、降ってわいたとしか言えないような不幸。愛し合う家族であればこそ、その一員を悲劇的な形で失うことは、残された家族にとって耐えがたい悲しみを与える。
その悲しみに、残された者は心の形を歪められ、家族はバラバラになってしまう。

でも、犬のさくらはずっとそこにいる。そして、家族はさくらを愛し続ける。
少しずつ年月が過ぎて、さくらがそこにいて、やがて残された家族は、すべてが失われてしまったわけではないのだということに気付く――。

天災や事故や犯罪など、夢にも思わなかった不幸に見舞われる――その衝撃や受けた心の傷を乗り越えられるかどうかは状況によりけりでしょう。崩壊してしまう家族もあるでしょう。それはただただ気の毒なこと。

ほぼ全編、会話部分は大阪弁。会話の内容も、性あり恋あり、大変赤裸々。それもまたこの長谷川家の特色の一部を語っています。ただ、描かれるあんなこともこんなことも、全部ひっくるめると結局のところ、この家族は本当に愛し合っていて、犬のさくらまで含めて、誰ひとり欠けてよい者などいないんだなぁ、ということ。
それなのに、ひとりが失われる。

読んでいて、この部分は苦しいものがあります。あまりにも気の毒で。あまりにも可哀そうで。長男は交通事故に遭い、一命はとりとめるものの大怪我で車椅子生活になります。そして何より気の毒なことに、顔が半分「潰れて」しまいます。お化けみたいな顔になってしまったというのです。まだ20歳の若者が。ハンサムで誰からも愛された人が。
たとえ車椅子でも、うまく口がきけなくなっても、顔さえもとのままなら、おそらく彼も家族も、あそこまで打ちひしがれることはなかったでしょうに。
やがて長男は、自らの命を絶ってしまいます。
あるいは、長男が事故のその場で死んでしまっていたら、あるいはもう少し――。

人間が社会的生活をおくるうえで、顔がどれほど重要か。美人など顔の皮一枚のこと、などと言いますが、それだけのことが人の一生にどれほど大きな影響を与えるか。人間に視覚というものが備わっている限り、人間はそれに囚われずにはいられません。悲しいことに。

大きな愛に支えられながら、それを脅かすほどの悲しみに見舞われた家族の、陳腐な表現ですが、「死と再生の物語」、ということでした。

webcitron01.gif


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  1. 2018/05/13(日) 22:00:00|
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