本と旅とそれから 家鳴り/篠田節子

本と旅とそれから

家鳴り/篠田節子

タイトルは「家鳴り」――「やなり」。
家屋がぎしぎし、あるいはみしっときしることですね。「しゃばけ」シリーズでは、それが実は家に住み着いた子鬼たちの立てる音なのだ、ということになっています。そしてこの子鬼たちが結構可愛らしかったりして。

そんな連想から手に取った1冊でした…が。
家鳴り

家鳴り/篠田節子(集英社文庫)

最近ちょっとご無沙汰してましたが、かつてちょっと続けて篠田作品を読んだ頃がありました。その頃は、比較的重厚な長編を多く読んだ記憶がありますが、今回のこれは短編集。背表紙のあらすじには「ホラー短編集」と形容されています。

ホラー…というかまあ、「ブラック」な感じです。7つの短編が収められていますが、確かに、ほとんどが読み終えて背筋がちょっと寒くなる感じ。

中で、現実を考えて怖くなったのが、最初の一編。
「幻の穀物危機」と題されています。脱サラして東京近県(山梨県かな?)の田舎で、奥さんの趣味の延長みたいなベーカリーを営んでいたとある子連れ夫婦。夏の盛りのある日、東京が大規模地震に襲われ、停電し、食べる物がなくなった大都会から多くの人が逃げてきます。その人の数は半端ではなく、このままでは自分たちの食べる物もなくなってしまう――そんな状況で引き起こされる大混乱。そこでは綺麗ごとは通らず、人々は食糧をめぐって殺し合う。
・・・そんな話です。

ホントにね。
昨年の夏みたいに尋常ならざる暑さの季節に、大規模停電になったらどうなることでしょう。自宅でクーラーが使えないというだけでもう、暑さが苦手な私などは死にそう。電車だって動かないし、大地震に見舞われるわけだから道路だってどうなるかわからないし、そもそも信号もついてないわけだし。冷蔵庫類がことごく使えなくなれば、夏には数日で食糧は不足してくるでしょう。

大震災のときに、日本人は苦境にあっても秩序と助け合いの精神を失わない、と称えられたり誇らしかったりもしたものですが、首都圏すべてという規模で危機に陥った場合、果たして我々はその人間らしさを保つことができるのでしょうか。

小説で読んでいてさえ、きれいごとを口にして、他人に食べ物を分けてあげてしまう夫が頼り甲斐のない男に見え、家族の食糧を手に入れるために人殺しまでする妻を責められないと思ってしまいますもの。
非常時には、多くの犯罪が正当防衛の名のもとに横行するのだろうなぁ…。

タイトルの「家鳴り」ですが。
「しゃばけ」の可愛らしい子鬼は忘れましょう。
ひと組の夫婦が、少~しずつ奇妙な方向に進み始める。夫が料理に力を入れ始め、妻は夫の作る料理をどんどんと食べ続け、夫は次第に巨大化していく妻がそれでも好きで、その愛情のこもった手料理が嬉しくて、妻はさらに食べ続け、ある日とうとう体調を崩した妻を病院に連れて行こうとすると、彼女は巨大すぎてドアから出られなかった――やがて。
・・・というお話。

一瞬、滑稽な絵にも思えますが。でも、少しずつズレていく夫婦の様子が、じわじわとコワいんですねえ。途中で立ち止まれさえすればよいのに。よく考えると、メインで変なのは夫なんですよね。妻はその夫の奇妙さを、愛情の表われとしてすべて受け入れてしまうせいで、巨大化という形でそれを表現することになってしまうわけです。まあ、その底なしの「受け入れ」が、妻の側の異常さともいえるのでしょうが。

そうした、日常から一歩踏み外した方向にずっと歩いて行ってしまった果てに行きつく恐怖。そんなお話が次々並んでいて、気味悪いのだけど、面白い。やっぱり篠田節子さんだから読ませるのだなぁ、と感心しながら、ちょっとぞくりとします。


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