辻村作品、図書館の文庫本棚に未読のものを見つけると、必ず1冊は借りて来る今日この頃。思えば、かなり多作の作家さんと言えるのでしょうか――えーと、作家プロフィールを(あらためて)見てみると、1980年生まれ、2004年デビュー。ということは、デビューして15年。
ふーむ…って、ただそれだけですが。
数えてみると、私にとっては本書で9冊めの辻村作品です。
サクラ咲く/辻村深月(光文社文庫)そんな本書は、巻末のあさのあつこさんによる解説の言葉を借りれば「辻村さんが若い読者に贈った一冊」。そう。3作の中編が収められており、最初の2作は同じ中学校の異なる生徒を、3作めはとある高校の生徒が主人公。
「若い」人たちが主人公なので、ストーリー展開は若干「現実はこうハッピーな方向にばかり進まない」という感じではあります。同時に「若者の日々はこんなふうであって欲しい」ような思いもうっすらあるでしょうか。帰らない日々だから、明るい光の中にあるように(あるいは「あったように」)思えるのかなー。
大人の世界につながっている感覚が強かったのが、やはり最後の高校生を主人公にした一編。
主人公(たち)は、とある高校の映画同好会の3人の男子。
自分たちで制作しようとしている初めての映画のため、ヒロインを演じてくれる女子生徒を探しています。そして見つけた「図書室の君」とあだ名される美しい先輩。ただ、お願いしても彼女は乗り気でない。どうにか説得しようとあれこれ働き掛ける過程で、過去のある時を境に、演劇部の花形だった彼女が、人目を避け、図書室でひとり静かに本を読むようになったことを知ります。何があって彼女は変わったのか。
そして彼らは、高校の新聞部のとある「記者」が彼女にインタビューしたことがそのきっかけだったことを突き止めます。現在は新聞部の部長であるその「記者」は、中学時代の彼女の同級生に取材して、彼女が中学生時代に地味な生徒だったことを聞き込む。高校の演劇部で注目を浴びた彼女にそのことをぶつけ、「高校に入れば地味な過去の自分を知る人はいないから、華やかに変身しようとしたんでしょう?」と尋ねたのでした。
そのインタビューに漂うそこはかとない「悪意」。
それに気づいて感情的になってしまった彼女は、その時を境に、人の注目を浴びることを避けるようになってしまったのです。
別にそれほど深刻な事情があったという話ではなく、大人の視点からすれば、いかにも多感な十代の若者だからこその話です。
でも、ここに語られているのは、有名人のプライバシーを侵害する「権利がある」と思い込んでいるマスコミ、というテーマ。
すぐに思い出したのは、市川海老蔵さんの奥さん麻央さんがガンで闘病の末亡くなった時に目にしたネット記事。確かあのとき、海老蔵さんが、自分はいくらでも取材を受けるから、麻央さんやお子さんそのほか家族の方々はそっとしておいて欲しい、みたいなことをおっしゃったのです。それに対してとある記者が、それを拒否するという趣旨で、特に息子さんの勧玄くんについて、いずれ彼も歌舞伎役者になるのだろう、つまり将来は有名人になるのであり、そのときにはマスコミにいろいろと取り上げてもらわなければ困ることになるんじゃないのか、なのに今は取材しないで欲しいというのは勝手な話だ、というようなことを書いていました。
あれを読んだときは、一部の(おそらくはゴシップ専門の)マスコミって何と傲慢で冷酷なんだろうと、情けない思いがしたものです。有名人に関する記事は読みたがる人が多いから、それを自分の力と勘違いして個人に対する配慮や思いやりをすべて捨てる。それが当然だと思い込んでいる。それを「言論の自由」だと思っている。
大人の世界の、そんな状況の高校生バージョンが描かれていました。

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辻村深月
- 2019/04/24(水) 22:00:00|
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