本と旅とそれから ポースケ/津村記久子

本と旅とそれから

ポースケ/津村記久子

あああー、何とステキ。
というか、今私が望んでいるのが、このような物語なのだろうと思います。
まさに「癒される」という感じ。
「癒される」とか「勇気づけられる」とか「慰められる」という感覚って、その根底に「こんな気持ちをくれてありがとう」って気持ちがわくし、作品にも愛着が生まれるものだなぁと思います。
ポースケ

ポースケ/津村記久子(中央公論新社)

さて、初めての作家さん。
きっかけは、朝日新聞に載ったエッセイでした。そのエッセイを書いたのが誰だったか覚えていないし、ほかにどのようなことが書かれていたのかもまったく覚えていないのですが、それを書いた人が、本書を絶賛していたのです――言葉遣いはあまり「絶賛」という感じではなかったけれど、静かな絶賛でした。

にしても「ポースケ」って何だろう?たぶん、誰かのニックネームだろう。音の響きからして、あんまり頭のよくない、でもみんなに好かれる男の子か何かの話じゃないかしら。

と思って借りてきてみたら、雰囲気としては「かもめ食堂」みたいなお話でした。

ポースケというのは、どうやらノルウェーのお祭のようで。
それを、奈良のとある喫茶・軽食のお店で開催しようということになるのですが、開催しようという店主からしてそれがどんな祭なのかよくわかってなくて、かなり適当に「文化祭」みたいな、スタッフや客が手作りの物を売ったり手作り料理を持ち寄ったり、会食もしたり、といったことになります。

というところから始まって、店主・ヨシカや数人のスタッフ、常連のお客さんたちそれぞれの物語が、連作短編のような感じに収められています。

冒頭は、どうした経緯でヨシカがポースケなどというものを思い付くのかという話で、彼女の店が舞台の一編。これが「かもめ食堂」な感じ(といっても、「かもめ」を読んだのもかなり昔のことなので、ぼんやりとした記憶しかないのですが)。さらりと軽く、淡々とした感触の物語で、読み手としてはすぐに心地よくなってしまいます。

でも、それに続く個々の登場人物たち自身の物語になると、内容は必ずしも軽く淡々としたものというわけではありません。まさに、一見淡々と飄々としているようでも、人はそれぞれに事情や屈託を抱えているものなのですね。その事実にまず何となく慰められます。

私が一番共感をおぼえたのは、店の朝のシフトに入っているアルバイトの女性・竹井さん(28歳)のお話「歩いて二分」。彼女は以前会社勤めをしていたのですが、上司と折り合いが悪くというか上司の嫌がらせを受けて鬱のような状態になり、引きこもり気味だったところをヨシカの店でバイトすることになります。歩いて二分とは、彼女の家とヨシカの店の距離。今の彼女の状態では、これ以上の距離を出歩くことは難しいのです。

ま、そんな彼女の日常から始まって、やがてちょっとしたことからその日常がちょっと崩れるまでのお話。竹井さん自身は結構苦しい状況にあると思うのですが、物語の進行はやっぱり淡々とした感じです。

彼女は睡眠パターンに障害があって、毎朝午前3時に起きる。そしてあれこれのルーティンをふむのですが、そのひとつが朝風呂。それが精神衛生のうえで結構プラス効果があるようなのですね――ふむ、何となくわかる。ただ、一日にそう何度も風呂には入れないことが難点だ、というそれもごもっともです。

おそらく他人にはなかなかわかってもらえないだろう彼女の苦しい状況。でも彼女は彼女なりに懸命に日々を生きる。苦しいながらも何とか前向き。そして彼女が幸運だったのは、「食事・喫茶 ハタナカ」のような店があってヨシカのような店主がそこにいて、それが家から徒歩2分という近さにあってそこにバイトの空きがあったこと。ほんの小さな幸運のようでいて、実はじわりと深い幸せ。
よかったね、竹井さん。

ヨシカのお店を思い描くとき、何となく、去年の秋に訪れた光文堂一乗寺店が思い浮かびます。ヨシカの店は古本屋の二階にあるという設定なので、1階で道に面している光文堂とは違うとわかっているのですが。光文堂の雰囲気が特に気に入ったというわけでもないのに。何ででしょう。何となく、でしょう。

webcitron01.gif


My Favorite Books(お気に入りの本のブクログ)
BOOKS INDEX(作家別感想文一覧)

関連記事
tag: 津村記久子 
  1. 2019/04/30(火) 22:00:00|
  2. 2019
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0

トラックバック

トラックバック URL
http://lazymiki.blog110.fc2.com/tb.php/2058-dc990d56
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する