本と旅とそれから ポトスライムの舟/津村記久子

本と旅とそれから

ポトスライムの舟/津村記久子

芥川賞受賞作品ってあまり読んだ記憶がないのですが、本書は津村さんのその受賞作。
私にとって津村作品は「ポースケ」(感想文は►コチラ)に次ぐ2作目です。
読んでみたら、本書は「ポースケ」に先立つ、「ポースケ」につながるお話でした。

さほど厚い本ではなく、表題作「ポトスライムの舟」のほかにもう1作「十二月の窓辺」も収録されています。
ポトスライムの舟
ポトスライムの舟/津村記久子(講談社)

少なくとも今の私には、どちらもしみじみと共感できる話でした。「楽しめました」というのはちょっと微妙なところ。明るく楽しい話っていうのとは違うんですよね。

著者・津村さんご自身の経験からくることらしいのですが、どちらの物語も主人公に職場でのパワハラという問題がおきます――あ、私は幸いパワハラ辞職という経験はないのですが。

「ポトス」の主人公は、「ポースケ」でヨシカのカフェでアルバイトをしていたナガセ。「ポースケ」では、ヨシカの店のほかに工場のラインとコンビニで働いていたとあったように思うのですが(記憶違いかも、ですが)、「ポトス」では、ヨシカの店のほかにはやはり工場と、週末に主に高齢者相手のパソコン教室、そして時々自宅でデータ入力の内職をしている、とありました。すごく勤勉。工場の仕事はやはりライン従事者で、化粧品の瓶の蓋がしっかり締まっていることと、欠けなどがないかを確認する、ということをしており、これが彼女にとってメインの仕事です。

工場ラインでの仕事は大して頭を使わない作業。そうなると、ラインについている間、ずっと考え事をしてしまう、というのですね。そしてそれは、ひとつのことを思い詰める方向に向かってしまうらしいのです。

・・・そうかも。
私に思い浮かぶのは、プールに通っていた数年前の経験。体調不良のためにプールはやめて、現在は通っていないのですが、当時、クロール(クロールと背泳ぎしかできないので)でひたすら行ったり来たりしていると、ふと浮かんだ考えをただただ繰り返し考えてしまうのですね。楽しいことが浮かぶこともないではないのですが、多くの場合、日ごろ気にかかっている困りごとについてずーっと考えてしまう。泳いでいる間はずーっとねー…。

プールならまあ、自分でやめることができるからよいけれど、工場のラインではそうはいかないわけで、2~3時間考え続けるハメになるのですね。場合によってはかなりつらい時間になるかも知れません。楽しみに思うことがあるときは逆に、楽しいことを考え続けて一定の時間が過ぎるだけでお給料がもらえていいの…かなぁ、よくわかりませんが^^;。

ナガセの、学生時代の仲良し四人組――ナガセ、ヨシカ、そよ乃、りつ子は全員「ポースケ」にも登場して、そちらでは何となくのんびりした存在なのですが、「ポトス」では、りつ子が結構苦しい状況。「ポースケ」では離婚後の母子家庭だけれどそれなりに安定していますが、「ポトス」では離婚作業の最中。娘を連れて家を出て、住むところもない(ので、ナガセのところに転がり込む)、職もない、ダンナとは戦う…。

学生時代とは環境が大きく変わった4人が、それでも何とかまだつながっている。うぅむ、友達とのつながりをすぐにほったらかしにしてしまう私には、とても立派な・・・というのか、ありがたい…というのか、まあ、そんなことに思えます。
親族からの金銭的な援助がたっぷりありながら困ったような口ぶりで話をするそよ乃が「ほとんどちがう国の人間」のように思えたというナガセの気持ちもわかるような。金銭的なことだけでなく、いろいろなことについて、自分とは大きく異なる境遇にいる人と話をしているにもかかわらず、そうと知ってか知らずか、まるで自分と同じ境遇にいる人と話をしているように話す人って、話をしていてつまらないというか、苦痛というか、バカバカしく思えるというか。
それでもそよ乃を切ってしまわないナガセやヨシカを、本当に尊敬します。

同時収録の「十二月」は、パワハラに苦しむ新人女子社員の毎日を描いています。
津村さん独特ということなのか、どこかに救いを感じさせるものがあるような文体ではあります。それでも、読んでいて思い出すのは、電通パワハラの事件。東大を出て、容貌も美しくて、本当なら輝く未来に向かっていくはずだった新入女子社員が自殺した事件。鏡に向かって毎朝、自分を励ますしかない日々。
・・・うぅ、パワハラって許せん。てか、児童虐待とか高齢者をターゲットにした詐欺とか、世の中にはなぜこんなにもひどいことをやらかす人が多いのか。

そんなテーマを扱っていながら、なぜかとっても好きな1冊でした。


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  1. 2019/05/12(日) 22:00:00|
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