本と旅とそれから かがみの孤城/辻村深月

本と旅とそれから

かがみの孤城/辻村深月

う~ん、よかった。特にラストが好きでした。
昨年の本屋大賞受賞作。受賞が報じられた時から読みたいと思っていて、予約して一度借り、途中で期限が来て返却してまた予約して借りて、今回読了。最近このパターンが多いような。興味を持って借りた話題作が、手元に来てみたらかなり長編だったということがしばしばなんですね。
かがみの孤城

かがみの孤城/辻村深月(ポプラ社)

辻村作品はこれまで主に文庫版で読んでいて、ということは発表されてからかなり時間が経っていたものばかりでした。ですが、今回はかなり最近のものです。
受賞のニュースで、テーマが「不登校」だったか「引きこもり」だったと聞いた記憶がありました。

主人公は中学2年生の少女・こころ(という名前)。学校でいじめに遭い、不登校になります。
――って、短く書けばそういうことにならざるをえないわけですが、いじめの内容にしても、不登校に至る当事者の心理にしても、それはとても簡単に説明できるものではありません。

つくづく、人間って複雑な生き物です。いじめのような問題を別にしても、同じ人間で、同じ日本語を話していながら、まるで宇宙人と対しているような違和感を覚える人っていますものね。
ときどきニュースなどで「職場での人間関係に悩み」云々というフレーズを耳にしますが、それも、その短い言葉の背後にどれだけの複雑な状況があるのだろうかと思います。

で、そうしたとても今どき多い状況を背景に展開する物語は、ほぼファンタジー。
タイトルの「かがみの孤城」がまさにそれで、こころは、自室の鏡をくぐりぬけて見知らぬ「城」にやって来ます。そこで、6人のほかの少年少女に出会います。彼らもこころと同様、かがみをくぐって城に来たのです。

そしてもうひとり、子供たちが「オオカミさま」と呼ぶ、オオカミの面をつけた少女が登場。彼女はこの城というか、鏡の向こうの世界を司る存在で、子供たちに城についてのルールを教えたり、時に脅しめいた言葉を投げかける、モンスターのようなフェアリーのような、不可思議な存在です。

少年少女たちの素性が少しずつ明らかになっていき、現実の世界(子供たちは鏡の向こうの世界と現実とを日々行き来するのです)では不登校を巡る状況が少しずつ動いていき、やがて「オオカミさま」に言い渡された、城で過ごすことのできる期間の終わりが近づく。

最初はわけがわからなかった「城」やそこに集う自分以外の子供たちに戸惑うこころでしたが、やがて鏡の向こうの世界に自分の居場所を見出し、そこで出会った他の子供たちこそ、現実の世界で得られなかった自分の友人なのだと思うようになる。でも、そこにずっととどまることはできない。最後の日が迫る。子供たちはどうなるのか――。

物語の設定のカギのひとつとなる、「鏡の向こうの世界で出会った彼らは、現実の世界で出会うことはできないのか?」の謎については、私は答えがわかったので、たぶん大方の人が気付くのだと思います。でも、オオカミを巡る謎については、気づかなかったなー。言われてみればわかるけど・・・。

自分の居場所。つまり、自分が安心していられ、自尊心を保ち、疎外感を覚えずにいられる世界。そして、小さないざこざはあっても、相手も自分と話したり一緒にいることが嬉しいのだ、とお互い思える相手、つまり友人。
しみじみ、その二つと空気だけあれば、人間生きていけるんじゃないかしら。

なのに、今どきの人間社会はあまりに複雑で、不器用な、あるいは繊細な人間はどうしてよいかわからなくなり、動けなくなり、閉じこもる。

そうして閉じこもって、引きこもった人間に、鏡の向こうの世界があったなら。
そんな願望を形にしたような物語です。

そして、ラストが本当に素敵でした。

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  1. 2019/09/15(日) 22:00:00|
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