本と旅とそれから 中原の虹 第四巻/浅田次郎

本と旅とそれから

中原の虹 第四巻/浅田次郎

去年UPした第一、二巻の感想文に、「今年初めて読んだ本が『中原の虹』第一巻だった」と書いているので、全四巻を読み終えるのにまるまる1年かかったことになります。

「蒼穹の昴」に続く、中国の近代史を扱った大作が、ようやく完結。


中原の虹 第四巻/浅田次郎(講談社)

感想文を書くのがこれで三回目ということもあり、何だか、もう何を書いたらいいのかよくわかりませんが・・・。

ふと思いついて、ウィキペディアの「張作霖・張学良」の項目を見てみました。二人の写真も載っていたし、張学良が2001年まで生きていたことも出ていました。

ただ、やっぱり思うのですが、「中原の虹」の張作霖や張学良や袁世凱や、その他もろもろの登場人物たちは、歴史書や教科書に出てくる同じ名前の人々とは別人。

――なんて、当たり前なことを。何を今さら。

そして、書き手が作中人物たちに感じる様々な思い入れが強ければ強いだけ、彼らは血の通った人間として生きて輝く。そういう意味では、書き手が一から作り出す架空の人物と何ら変わるわけではないのでしょうね。

その一方で、膨大な歴史上の事実は事実としてあるわけで、意図的な解釈の違いは別として、勉強不足で間違ったことを書くわけにはいかないのがこのジャンルの大変なところかと。

この作品、「蒼穹の昴」と比べ、「群像」度が一段と高い。
「蒼穹」は春児と梁文秀に焦点が当たっていたけれど、「中原」は張作霖と、春児の兄・春雷をはじめとする子分/幕僚たち、袁世凱と盟友・徐世昌、日本に亡命した梁文秀夫妻や彼らを取り巻く人々など、誰が主人公なのか、言い切れないと思うほど。

その分、考えてみると、感動が分散したような気も。
期待の大きかった春児・春雷の兄弟再会のシーンも、かなり抑えてあったし。
春雷と妹・玲玲の再会の方は泣けましたが・・・まあ、兄弟の場合は敵味方の交渉だったので仕方のないことではあったのですが。

「蒼穹」のラストが、もう映像で見せられるようにありありと情景が浮かび、音楽の盛り上がりまで聞こえるぐらい胸に迫る感動のシーンだっただけに、「中原」の最後はいまひとつの気がしてしまいます。

しかも、ラストがラストじゃないし。
これから長城を越えるぞ、中原に行くぞ、というところで終り。
梁文秀だって、長い雌伏の後、ようやく帰国したけれど、まだ何も動いてないし。

結局張作霖は夢を果たせず、後に中原から満州に戻るところで日本軍の満鉄爆破によって謀殺されるというのが歴史の事実。
「中原」は、彼が栄光の頂点に向けて第一歩を踏み出すところを描いていて、だからこそ、いろいろあっても、物語は明るい光に満ちていたのかな。

思うに、「蒼穹」が人物を中心に据えた物語だったのに対し、「中原」は歴史を追いかけた物語だったのでしょうか。清朝末期を描いた「蒼穹」に比べ、その後の中国の近代史が一層激動・混迷の時代だったということかも知れません。
時代が現代に近づくにつれ、歴史の担い手は分散していく。日本もそうですよね。

あ~でも、力量ある作家さんの歴史小説ってホントすばらしい。
多くの人が生きて動いて、それが人間の存在を超えたものを作り出していく様が何とも感動的です。

浅田さん、ありがとう。
いつかまたこの続きを書いて下さい。


webcitron01.gif


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tag: 浅田次郎 
  1. 2008/01/16(水) 20:19:00|
  2. 2008
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コメント

No title

初めまして 

ぶろぐ村からやってきました。
私の大好きな 『蒼穹の昴』 『中原の虹』 のレビュー
愉しく読ませていただきました。

私は、友人に薦められて、『蒼穹の昴』を読んだのですが
一回目の読書では何が言いたいのか、分からず
何度も読んでいるうちに、「生きる」ということは、どういうことであるか、を
浅田さんは言いたいのではないかなって思ったりも~

『中原の虹』1巻が出てから、かなり長い間、第二巻が出なかったので
その間は、『蒼穹の昴』をもう一度読む、ということを何度も繰り返しました。
で、登場人物の中国音も覚えてしまうくらいに読みました。

何度、泣いたことでしょうか、面白さは、やはり『蒼穹の昴』の方が面白いのではないかなって思いました。特に、李鴻章、西太后の関係など、あれほど生き生きと描かれている登場人物は珍しいのではないでしょうか。私は、李鴻章が一番好きでした、格好が良いんですよね~ で、『中原の虹』の読者アンケートに「亡霊でもいいから、李鴻章を出してくれ」と出したんです、すると、出てきましたよね、第4巻で~

ミ(`w´)彡 
  1. 2008/01/16(水) 20:40:00 |
  2. URL |
  3. rudolf2006 #79D/WHSg
  4. [ 編集 ]

No title

◈rudolf2006さん、
初めまして!
コメントして下さってどうもありがとうございます!

頂いたコメントを読んで、「やっぱ『蒼穹の昴』、自分で買ってまた読もうかなぁ」と思いました。私、実は図書館で借りたものをまだ1回しか読んでいないんです。
とてもインパクトが強かったとはいえ、やっぱり細部は時間が経つと忘れてしまいますもんね、一回しか読んでいないと。

そうですね、「蒼穹」の春児の生き様って、結局は生きるということへの賛歌なんだなと思います。すべてを失っても、生きることを止めない、希望のカタマリみたいな人間ですよね、彼は。

李鴻章、最後に袁世凱の手を取って玉座に導くんですよね。
しかし、袁世凱という人物が、振り返ってみると実はよくわからなかったかも。
私はやっぱり春児がいいなー。
「中原の虹」では出番がすごく少なくて残念でした・・・。
梁文秀との再会シーンを期待したんですけど、3日違いで果たせなかったし。

またいつか、続きを書いてくれるんじゃないかと期待してるんですよー。
  1. 2008/01/16(水) 20:59:00 |
  2. URL |
  3. lazyMiki #79D/WHSg
  4. [ 編集 ]

No title

そんなに面白いのですか?
長編なので覚悟して読まないと・・・。

Mikiさんはブログもやっているのに、一体いつ本を読まれるのですか?
私はブログを始めてめっきり読書時間が減りました。
  1. 2008/01/17(木) 00:18:00 |
  2. URL |
  3. よしりん #79D/WHSg
  4. [ 編集 ]

No title

◈よしりんさん、
もちろん好き好きなんですけどね。
歴史長編がお好きなことが前提条件だと思います。
まずは「蒼穹の昴(そうきゅうのすばる)」。
かつて、ペルーの日本大使館人質立て籠もり事件の時、囚われた人質の間で最もよく読まれていた本、と聞いております。希望を持たせてくれるからかと。

電車の中、駅のホーム、各種待合室が、好みの読書場所でしょうか。
私のブログは読書感想文自体がネタでもあるので、ブログを始めてから読書量は増えたと思います(^‐^)
  1. 2008/01/18(金) 00:16:00 |
  2. URL |
  3. lazyMiki #79D/WHSg
  4. [ 編集 ]

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