本と旅とそれから 黒と茶の幻想(上)(下)/恩田陸

本と旅とそれから

黒と茶の幻想(上)(下)/恩田陸

作家さんの筆力・・・というのでしょうか。
ぐいぐいと引っぱられるようなパワーを感じた本でした。


黒と茶の幻想(上)(下)/恩田陸(講談社文庫)

yuriさんがとても褒めておられた1冊(►コチラ)。
恩田作品には当たりハズレがあると聞きますが、用心深く他力本願ポリシーを貫いているため、幸いにもいまだハズレには出会っておりません。

学生時代からの親しい友人、男女それぞれ2人、合わせて4人が、屋久島に旅行に出かけ、様々なことを語り合い、森を歩いて数日を共に過ごす。
物語は4章に分かれ、それぞれにこの4人の視点から見た過去と現在が語られていきます。
そこにちりばめられた大小さまざまの「謎」。

やはりまず見事だと思うのは、4人の登場人物たちの性格描写。
中でも、学生時代に恋人同士だった利枝子と蒔生(まきお)の二人が、何とも微妙な色合いを帯びた性格をしているのですが、これをとても繊細に描き出しています。

それから、全編にちりばめられている、「あー、そうそう、そういうものだよねぇ!」と思わせるような身近な真実(と、思えるようなこと)。

たとえば。
4人のグループで山歩きをする。
一列に並んで歩き出す時、メンバーのひとり彰彦がいつもごく自然に先頭に立って歩き出す。
その後姿を見つつ、もうひとりのメンバー節子は心からの尊敬を覚える。

なぜなら、世の中は決して先頭に立とうとしない人間が大多数を占めているものだから。
いつもきょろきょろと周りを見回して、誰か先に歩いてくれないかなと探している大多数。
そんな中で、当たり前のように先頭に立って歩き出す人の見事さ。

大きく頷いてしまいましたよ。

そうだねぇ、ホントにそうだ。
「誰か企画してくれないかな、そしたら私も乗るのに。」と、思いがち。
後ろについて行く方が楽だから。わざわざ前を歩くほどのことはない・・・。
そんな中で、すっと前に立って歩き出してくれる、そんな人を尊敬する気持ち。
わかるなぁ・・・。

この彰彦という男性に対して、節子が呈する褒め言葉が素晴らしい。
「彰彦は魂が上等なのだ」
――究極の褒め言葉ですねぇ・・・。
(ちなみにこの彰彦、とんでもない美形のうえに資産家だったりもするんですけどね。)

正直に言えば、導入の部分、屋久島へとやって来るあたりまでは、少し退屈だと思わないでもありませんでした。でも、4人の物語と屋久島の森という舞台が共鳴し始めたあたりからはなんかこう、ありきたりな表現だけど、物語に引き込まれました。

とりとめのない感想文を、書こうと思ったらいつまでもだらだらと書けそうな、いろ~んな要素のたくさん詰まった物語でした。

でも、この、「黒と茶の幻想」というタイトルの意図が、ずっと考えているのだけど、いまひとつよくわからないのです。
英語表記もあって、"Black and Tan Fantasy"。
「茶」をbrownではなくtanとしたことに、何か意味はあるかなぁ・・・。


webcitron01.gif


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tag: 恩田陸 
  1. 2008/06/01(日) 22:13:00|
  2. 2008
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コメント

No title

はじめまして。レビュー楽しく読ませていただきました。
そういえば、なぜ「黒と茶の幻想」なのでしょうね?
黒も茶(tan)も、ちょっと見には、区別がつけがたい。なので、過去のなんとも判別のしがたい出来事を、「黒と茶の幻想」としたのかな、と読んだときには考えていたのですが。
いかがなものでしょう?
  1. 2008/06/01(日) 23:13:00 |
  2. URL |
  3. tacom #79D/WHSg
  4. [ 編集 ]

No title

これ、押入れのダンボールの中に入れ「ちょっと待ってておくれよ」と声をかけてから忘れていましたよ。
持ってるのに読まないなんて勿体無い・・・なんていつも言っておりますが自分がその勿体無いを実行していましたよ・・・(泣)。
是非発掘して読もうと思います。
ちなみに今漫画ののだめを読んでます(笑)。
  1. 2008/06/02(月) 01:18:00 |
  2. URL |
  3. lazybug #79D/WHSg
  4. [ 編集 ]

No title

◈tacomさん、
はじめまして。読んで下さってありがとうございます!
コメントいただけて嬉しいです^^

tacomさんにコメントいただいたので、もう一度、タイトルについてよーっく考えました。
で、一案なんですけどー。
黒は、闇。茶は、森・・・というのはどうでしょうか。
屋久島の杉の森って、何となく、緑というよりは、杉の幹の茶色のイメージかな、と。
で、その森の中の、木々の闇の中に様々な幻想が浮かぶ、って感じで?
・・・こじつけかなー・・・。
  1. 2008/06/02(月) 22:03:00 |
  2. URL |
  3. lazyMiki #79D/WHSg
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No title

◈Ayakoさん、
Ayakoさんの蔵書って奥深いなー。
ご自身の「押入れ」にもいろいろありそうだし、ご実家やお兄様の本棚も自在に活用しておられるから、いろいろ出てくるねー。いいな。
この本は、読み応えアリって感じでしたよ。
屋久島のHPも見に行ったけど、実際の写真より、恩田さんの文章を読んで思い浮かべる光景の方が、何だか美しいし。

のだめ?もう20巻ぐらいになりましたねー。
まだ終わりそうな雰囲気ではないし・・・。
最近はコミックの発行を待って1冊ずつ読んでいるので、すぐ筋を忘れるですよ^^;
  1. 2008/06/02(月) 22:08:00 |
  2. URL |
  3. lazyMiki #79D/WHSg
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No title

タイトルの意味は、私も読んだ時全然分からなかったです。

でも今ひらめいたのですが、
これって推理をするのに事件現場には立ち会っていない、
いわゆる「安楽椅子探偵」ですよね。(山歩きしながら安楽椅子とはこれ如何に…)
安楽椅子、つーと、「黒」とか「茶」とかの革張りだったりしませんか?
茶がbrownではなくtanと表現されているのも、皮革製品っぽいと思うのですが。

…いかがでしょうか?
  1. 2008/06/03(火) 10:33:00 |
  2. URL |
  3. yurinippo #79D/WHSg
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No title

◈yuriさん、
なるほどー。
tanって単語、(まあ、日本人レベルのハナシですが)皮のイメージありますもんねー。

思うに、実は答えはひとつじゃなさそう?
ちょっと曖昧な感じのタイトルっていうのは、「まあ、いろいろ考えてみてねー」ってことなのかも。
どちらにしても、ちょっと重厚な、落着いた、暗いっちゃ暗い、静かともいえる、何かちょっと怖い気もしたり、というようなイメージを漂わせるタイトルなんですかね。
(なんちゃって、出版された頃には、どこぞの文芸誌あたりで作家インタビューでバシっと述べられていたりして^^;。)
  1. 2008/06/03(火) 21:35:00 |
  2. URL |
  3. lazyMiki #79D/WHSg
  4. [ 編集 ]

No title

「タイトル」談義、面白く読ませていただきました。
lazyMikiさんの、屋久島の森のイメージ、私も近い感じを持っていました。
yurinippoさんの「安楽椅子」、意外なところですが、なんだか、この小説にしっくりきますね!
確かに答えはひとつではなさそうですね。恩田陸氏自身はいかに…!?

lazyMikiさん、「からぱにっく」へのコメントありがとうございました!
確かに読書の傾向が似ていますよね…!
こちらの「My Favorite Books」を拝見させていただいて嬉しくなってしまいました!
お気に入りの一冊を、また、見つけられそうなウレシイ予感がしております♪
  1. 2008/06/05(木) 00:53:00 |
  2. URL |
  3. tacom #79D/WHSg
  4. [ 編集 ]

No title

◈tacomさん、
同じ本を読んだ者同士であーだこーだと話をするのって、楽しいですよねっ^^
思いもしなかった考えとか視点とかを聞くと、すごく得した気分デス。
本読みって本来、ひとりで読んで自己完結、って傾向が強いと思いますが、いろいろと話をできると、ホントにひと粒で二度と言わず三度、四度と美味しい・・・。
(結局、「おトク感」を追求しているだけなのか、ワタシ?)

「My Favorite Books」見て下さったんですね!
うれしー。
あれ、最近追加してなかった!「ブラックペアン」とか入れなくちゃ。
きっとワタクシ、これからもtacomさんのブログ(お二人で書いておられるんですね、面白いですね!)に通っちゃいますよん^^
  1. 2008/06/05(木) 23:52:00 |
  2. URL |
  3. lazyMiki #79D/WHSg
  4. [ 編集 ]

No title

眠い...のに書込み(笑)。もう寝ようと思ったんだけど。

この本、読みたいと思って手帳にタイトルと著者名をメモってあった。本のタイトルがスタンダードジャズナンバーと同じなのでいつか読もうと思ったんだったと思うけど、何故tanなのかは知らないなぁ。今度知ってそうな人に聞いておくよ。
屋久島は行ったことないけど、タイトルについて想像をめぐらしているコメントを読んでてイメージがふくらみました。

LazyMikiくんのブログお友達がお薦め&LazyMiki本人もお薦めだとすると、図書館に予約を入れねば。
  1. 2008/06/06(金) 00:44:00 |
  2. URL |
  3. しの #79D/WHSg
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No title

◈しのちゃん、
お疲れさんです~。

ほよー(懐かしのアラレちゃん風)!
この本のタイトルと同じジャズの曲が?!
それは・・・歌詞もある曲なのかな。
やっぱ、まったく同じということになると、恩田さん(どっちが先にできたものなのか知らないんだけど)が意識したってこともあるかも?
んーむ、どっかに恩田さんのコメントとかないのかなぁ。
屋久島の描写、すごくよいよ。行ってみたくなるよ。
・・・っても、物語には描かれていない、南の島ならではのイキモノ(クリーピーなヤツ)が存在するらしいが・・・。

しのちゃんも、引越ししてから「図書館に予約を入れる」ビトになったんだね^^
もし、予約待ちが長い場合、この本なら文庫で持ってるからご一報を。
  1. 2008/06/06(金) 23:41:00 |
  2. URL |
  3. lazyMiki #79D/WHSg
  4. [ 編集 ]

No title

タイトルと作家名でググってみて。ばっちりのマニアックなサイトにヒットするから。(偶然見つけた)
恩田陸さんはご自身がアルトを吹くそうで、気分次第で曲名を作品名にしてしまうみたい。黒と茶~について特にこれを選んだ理由はないみたいな感じ。

そのサイト、非常に面白かったよ。恩田陸マニアが3名ほど作家本人を囲んで対談してる。如何にサブカルチャーに造詣が深くてマンガ&読書三昧の思春期を過ごした人かが色濃く反映されてる。

それにしてもMikiくんを私設図書館化してしまいそうな勢い。ありがとね~。貸出希望の場合は上京前にMiki図書館に予約入れるよ(豊中市立図書館のウェイティングもやはり長いらしいので)。
  1. 2008/06/10(火) 01:11:00 |
  2. URL |
  3. しの #79D/WHSg
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No title

◈しのちゃん、
え!そうなんだ?!
恩田さんってジャズファンだったんだー。全然知らんかった。
(同い年生まれ、ということ以外、作家さんについてほとんど情報ナシ。)

狭山市立図書館は、ちびちびとそれでも進化を続けてくれていて嬉しいんだよね。
最近は、オンラインで自分の貸し出し&予約状況をチェックできるようになったし、予約待ち人数(と自分の順位)もわかるようになったよ。
これで、もうちょっと機動的に購入リクエストに対処してくれると助かるんだけどなー。
  1. 2008/06/10(火) 22:40:00 |
  2. URL |
  3. lazyMiki #79D/WHSg
  4. [ 編集 ]

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