本と旅とそれから 櫻守/水上勉

本と旅とそれから

櫻守/水上勉

たぶん「飢餓海峡」しか読んだことがなかったと思うんですけど・・・水上勉作品。
ちょっと桜をテーマにした本を読んでみようかと、借りてきました。
この新潮文庫版には、「櫻守」と「凩(こがらし)」の2編が収録されています。



櫻守/水上勉(新潮文庫)

どちらも昭和40年代前半に発表された、京都を舞台にした職人の物語。「櫻守」は桜を愛する植木職人、「凩」は宮大工が主人公です。

そしてどちらも、「命」、「死」といったテーマが胸に迫りました。


年齢はかなり違うものの、どちらも主人公は無骨で頑固者の男性。職人としての哲学は非常に保守的といえます――職人というのはそれが当たり前なのかも知れませんね。先人・先輩から伝わる技能を、さらに後輩に伝えていくのがその使命だと思えば。

極論めきますが、職人と芸術家の違いは、独創性の入り込む余地がどのくらいあるかの違いかも知れません。芸術家はこれまでになかったものを新しく生み出すことを求め、職人は長年伝えられてきたものを、廃れさせることなく次に伝えることを目指す。昨今は、伝統を守るだけでなく新しいものも取り入れ・・・などとよく聞きますが、まあそれは二義的なことかと。

昭和40年代といえば、いわゆる日本の高度成長期で、開発で土地がコンクリートに覆われ、古いものが顧みることもなく捨てられていった時代です。
物語に登場する昔気質の職人たちは、考え方が古い、新しいものの価値を分からぬ頑固者、と笑われながら、古い木々を、山を、木造のたてものを愛し、守ろうとします。

今思えば、あの頃どれほど貴重なものが多く失われたことでしょう。最近でこそ、古い町屋や古民家などが貴重なものとして保存されることも多くなったけれど、その今でさえ、効率とか、安全性(この言葉、狡猾・・・)のために、古いものがどんどん姿を消していってますもんね。

でも、私なんかが「古いものを壊さないでよ」と言うのは、まだまだ薄っぺらいです。

「凩」を読むと、街中のアパートに暮らせと薦める娘夫婦の言葉を振り切って、先祖伝来の田舎の谷に自分ひとりが住むための小さな家を建てる宮大工の姿に、古いものというのが実は人々の魂を伝えるものであり、たとえ誰しも死ぬ時はひとりだとはいえ、昔から変わらぬ土地で古くからの思いのこもるものに囲まれて死ぬなら、それによって人は死の恐怖や寂しさを忘れられるのだ、ということがわかります。

木造のものは燃えやすい。
でも、だからといって燃えにくい、けれど火がついたら有毒ガスを出すようなものに安易に取り替えるのではなく、燃えないように守り伝える。そうして伝えられてきたものは美しい。

・・・そうなんです、そうなんですよね。

「櫻守」では、染井吉野がちと厳しく言われます。
育ちが早く、植付けも植替えも簡単。でも、主人公の師匠によれば、これは日本の桜で最も堕落した品種であり、こんな桜を、昔の人はみなかった、と。

手厳しい!
私は染井吉野もとても好きですけどっ^^;

しかし、桜をこよなく愛するその師匠は、正気の沙汰ではないといわれた、樹齢数百年の桜古木の植替えを成功させます――ダムに沈むその樹を救うために。

巻末解説の某文芸評論家氏によれば、「水上勉という作家が、元来は川端康成と同じ死の作家であり、その創作衝動の奥に死の想念を秘めている」とのこと。
・・・へぇ~。でも、そう言われてみれば、「凩」はちょっと川端の「山の音」と似た香りもあるような。川端は死の作家・・・ふ~ん・・・そうかも。

久しぶりに、とても古風な現代小説を読んだ気がします。


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tag: 水上勉 桜の本 京都の本 
  1. 2010/05/15(土) 10:50:00|
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