本と旅とそれから 僕はなぜエルサレムに行ったのか/村上春樹

本と旅とそれから

僕はなぜエルサレムに行ったのか/村上春樹


今年2月に村上春樹氏がイスラエルのエルサレム賞を受賞され、その授賞式で実に気骨のあるスピーチをされたことは、マスコミでもずい分報道されたのでよく知られていますよね。

ミーハーをもって任ずるワタクシ、「名演説」、「名文句」というのには滅法弱い!
(オバマさんの就任演説なんかもサ~~。)

僕はなぜエルサレムに行ったのか/村上春樹
(文藝春秋 2009年4月号)


文藝春秋誌今号にこの受賞スピーチ「壁と卵」の日本語版、英語版、そして受賞を巡る村上氏の思いを綴ったエッセイが掲載されたので、読んでみました。


当然のことながら、イスラエル軍によるガザ空爆が行われている最中にこうした賞を受取りにイスラエルに行く、ということについては、村上氏の元に賛否両論寄せられ、氏もいろいろ思い悩まれたそうです。


受賞を断るのはネガティブなメッセージですが、出向いて授賞式で話すのはポジティブなメッセージです。常にできるだけポジティブな方を選びたいというのが、僕の基本的な姿勢です。


これも、ノブレス・オブリージェというものでしょうか。
村上氏も、ことさら国際問題に詳しいわけではなく、「人並みに関心をもってきた」、「一応関係する本を読んできて、歴史的な経緯はだいたい頭に入っている」という程度。
著名知識人として、たとえば私なんかよりはずっと状況を理解しておられるだろうと思うけれど、それでも別に専門家ではないのですから、公の場で何か語れば、「あなたは本当の状況をわかってないからそんなことを言うのだ」と批判されかねない。そのリスクを敢えて冒す――勇気の要ることです!

この「僕はなぜ~」には、なんか線を引きたくなるようなフレーズが多いのです。


ただ一方で、自分は安全地帯にいて正論を言い立てる人も少なくはなかったように思います。たしかに正論の積み重ねがある種の力を持つこともありますが、小説家の場合は違います。小説家が正しいことばかり言っていると、次第に言葉が力を失い、物語が枯れていきます。僕としては正論では収まりきらないものを、自分の言葉で訴えたかった。


正論は正論だから正しいんだけれど、その面白みのなさにうんざりすることがあるのも事実。
小説家がおしなべて正論言うべきでないかどうかはよくわかりませんが、「正論では収まりきらないものを自分の言葉で訴えたい」という小説家の存在は頼もしいと思います。

自分の作品が好きだと言ってくれる人たちを前に、その人たちについて批判的なことを言わねばならないのがつらかった、とも村上氏は書いておられました。


素直にありがとうというだけで済んだら、どんなによかっただろうと。


パレスチナ問題というのは何しろ歴史が長いし、宗教が根底にあるので、単なる利権がらみの問題とはその難しさが比べものにならないし、民族問題と比べても希望が薄いような気がします。
そんな中でなお解決の道を求めて努力してる人たちがいるなんて、何て偉いんだろう・・・。

村上氏はしかし、問題が単なる白か黒かで割り切れるものではない、ということも理解しておられます。
世論というのは単純な白か黒かの選択を好むものですが、世の中そんなにすっぱり割り切れる物事って実はあんまりないはず。一方的に白と黒を決めて黒を罵ることは簡単でしょうが、それが問題の解決になるとは決して限らない。悩みや試行錯誤を繰り返し、前進しているのかいないのかわからない道を辛抱強く歩む。
それができる人たちって、本当に尊敬に値すると思います。

村上氏は、パレスチナ問題の一番の問題点は、「原理主義と原理主義が正面から向き合っていること」だと書かれています(まあ、これは村上さんじゃなくてもそう思うけど)。
片方だけが原理主義でもアフガニスタンなんかでは大苦労状態なのに、ここでは両方ですものねー。
ホントに・・・お先真っ暗みたいな感じなんですけどね・・・。

らしくもないことを長々書いてしまいましたが、最後にちゃんとミーハーらしく、「壁と卵」の有名なフレーズを引用しちゃいましょう。
英語は村上氏の翻訳者であるジェイ・ルービン氏の訳です。


もしここに硬い大きな壁があり、そこにぶつかって割れる卵があったとしたら、私は常に卵の側に立ちます。
そう、どれほど壁が正しく、卵が間違っていたとしても、それでもなお私は卵の側に立ちます。

"Between a high, solid wall and an egg that breaks against it, I will always stand on the side of the egg."
Yes, no matter how right the wall may be and how wrong the egg, I will stand with the egg.


それにしても、エッセイやスピーチにはこれだけ共感できるというのに、なぜ小説がわからないのでしょうか、村上春樹!
ま、とりあえずまた何か読んでみることといたしましょう。




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tag: 村上春樹 
  1. 2009/03/25(水) 20:43:00|
  2. 2009
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No title

アップされた本と同じ本は1冊も読んでいなくて、コメントできないのですが、昨日、伊坂幸太郎の「モダンタイムス」を読み終えて、ちょっと伊坂ワールドの1冊目にはふさわしくなかったかな、と思っているところです。あと3週間ほど本に浸れる時間があるので、いろいろ読んでみようと思ってます。
  1. 2009/03/25(水) 21:06:00 |
  2. URL |
  3. barnes_and_noble #79D/WHSg
  4. [ 編集 ]

No title

To barnesさん、
当代の人気作家だからといっても、決して自分と波長が一致するとは限りませんよね。
ブログでいろいろな方の感想をうかがっていて、日々その思いが強まります。
でも、だから世の中バラエティ豊で、新しい発見てものもあるのかも。
・・・だはは、なんちて。
  1. 2009/03/25(水) 21:12:00 |
  2. URL |
  3. lazyMiki #79D/WHSg
  4. [ 編集 ]

No title

この号の「文藝春秋」はいろいろ面白そうな記事があったので
僕も買って今も部屋においてあります。
でも、まだ村上春樹のところは読んでいないので、
読んだらMikiさんの記事や皆さんのコメントを拝見しまーす。
楽しみです。
  1. 2009/03/25(水) 23:54:00 |
  2. URL |
  3. matin_soiree #79D/WHSg
  4. [ 編集 ]

No title

>それにしても、エッセイやスピーチにはこれだけ共感できるというのに、なぜ小説がわからないのでしょうか、村上春樹!

同感ですw まっとうな人ほど実はナニを考えているか分かったものではない、よい例が村上春樹の小説だな~って、よく思ったものです。最近では「東京奇譚集」を読みましたが、普通に読み進めていても、ときどきふっと異質なモノを感じるんだよな~。自分はもぅ、ねじまき鳥3巻のモンゴル人が皮を剥ぐシーンを延々と読まされ続けて、殆ど恨んでいるといっても過言じゃありませぬ( ̄Д ̄;;
  1. 2009/03/26(木) 01:37:00 |
  2. URL |
  3. ぐん #79D/WHSg
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No title

To matin_soireeさん、
めーーーーったに買うことはないのですが・・・文藝春秋。
この前の号に、芥川賞(直木賞もかな?)受賞作が掲載されていたんですよね。

matin_soireeさんの感想が楽しみです。
お読みになったら是非お聞かせ下さいね^^
  1. 2009/03/26(木) 23:21:00 |
  2. URL |
  3. lazyMiki #79D/WHSg
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No title

To ぐんさん、
「ノルウェイ」とか「カフカ」とか「羊」とか、一応読んでるんですが・・・。
なんか、涙が出るほど(だったか、震えるほど、だったか)感動した、というような感想もうかがうので、何が何やらよくわからん私は、非常に損をした気分なんですよね。

いや~、でも、ぐんさんもいろいろ苦労(?)されていたのですね!同志よ。
ブロガー仲間にお薦め頂いた旅行エッセイの「遠い太鼓」は楽しかったです。
そう、エッセイとかは楽しめるんですよねー。
でも、いつかノーベル賞獲りそうじゃないですか、村上春樹さん?
その時までには全部読んでおきたいと思ってます。
しかし、皮を剥ぐの?・・・何の皮?
  1. 2009/03/26(木) 23:28:00 |
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  3. lazyMiki #79D/WHSg
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No title

に・ん・げ・ん・・・のかわです・・・ウッギャー!マタオモイダシター!
  1. 2009/03/27(金) 00:54:00 |
  2. URL |
  3. ぐん #79D/WHSg
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No title

To ぐんさん、
に・ん・じ・ん・・・のかわぢゃなくてぇぇぇ~~?!
ねじまき鳥って、ヒトの皮剥ぐハナシだったのかっ(auのTVCMかぃ・・・)。
  1. 2009/03/27(金) 23:10:00 |
  2. URL |
  3. lazyMiki #79D/WHSg
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